経営戦略論の古典「競争の戦略」で知られるハーバード大のマイケル・ポーター教授が1991年に唱えた仮説は、その後経済学者らの論議を巻き起こした。企業の足を引っ張ると思われていた環境規制が逆に競争力を高めると説いたからだ▲この「ポーター仮説」を支えているのが、70年代から80年代半ばにかけて環境規制が米国より厳しかった日本とドイツの生産性向上だ。なるほど70年代の排ガス規制を技術革新によってクリアした日本の自動車産業は圧倒的な競争力を身につけて米国市場を席巻した▲適切な環境規制はかえって企業の効率化をもたらし、技術革新を促して、その地域の競争力を高めるというのだ。学界で異論が続出したのは仕方ないが、仮説を体現してみせた日本には「艱難(かんなん)汝(なんじ)を玉にす」の格言もある▲思い返せば昨年のみどりの日には低炭素社会実現に向けた自然エネルギー開発などグリーンイノベーション(緑の技術革新)が新成長戦略として語られていた。だが原発の大量増設を前提にした低炭素化構想など、はるか昔の夢だったように思える想定外の1年後だ▲福島第1原発事故の環境への破滅的な影響を国民が目の当たりにする今、日本のエネルギー政策の根本的な見直しは避けられない。原発依存を減らすのならば、太陽光、風力、地熱など自然エネルギー開発で過去の低炭素化構想をはるかに超える進展が求められよう▲ならば、この「艱難」こそ次の時代の競争をリードする「玉」を生むのだと腹をくくってはどうか。来年は言葉通りのグリーンイノベーションのフロンティアを見渡せるみどりの日になればいい。
毎日新聞 2011年5月4日 0時02分
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