大阪への異動が決まった後の今年4月、単身赴任用のマンションを探すため難波の不動産業者を訪ねた。「家賃は3万円以下。新世界かあいりん地区周辺で」。30歳前後の店長は「希望が多くない地域なので……」とやや戸惑いを見せた。
新世界(大阪市浪速区)には通天閣がそびえ、あいりん地区(西成区)には仕事を求めて労働者が集う。以前担当した地域で人一倍の思い入れがある。こんな説明をすると、あちこちから物件の資料を取り寄せ、2件の候補を挙げてくれた。どちらも共益費込みで月3万円だ。
店長は盛んに「同じ家賃ならこっち」とあいりんの物件を推すが、割れたバスタブに補修の粘着テープが。結局、狭さを我慢して新世界の物件を選ぶと、初期費用が少し安く済んだ。仲介料(共益費抜き家賃1カ月分)が安いためで、あいりんを勧めた理由が何となく分かった。
異動の度、不動産業者の流儀にも土地柄を感じる。日祝日休みの金沢では「殿様商売か」と怒り、前任地の京都では細か過ぎる注意事項にあきれた。そして、大阪。たくましい商魂を垣間見て「帰ってきた」と実感した。【山本直】
毎日新聞 2011年7月4日 大阪夕刊
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