台北郊外の台湾電力第二原子力発電所で17日、東京電力福島第一原発なみの事故発生を想定し、本格的な防災演習があった。馬英九(マー・インチウ)政権が災害対応の全面的な再検討を指示したのを受けたものだ。立地条件が日本と似る台湾で原発事故はひとごとではなく、来年1月の総統選に向けた争点に浮上している。
第二原発の東北東342キロ沖を震源とするマグニチュード8の地震が発生。外部電源が切れ、予備発電機を起動。しかし20分後に15~20メートルの津波が襲い、全発電機が故障、冷却系統が機能を失う――。「例年の演習と全く違う複合災害を想定した。学ぶべきモデルだった日本での事故は、衝撃だ」と行政院原子力委員会の担当官は説明する。
演習開始に合わせ、原発敷地内に映画「ミッション・インポッシブル」のテーマ曲が響いた。放射能測定、発生した火事の消火、さらに原子炉建物への消防用水と海水の注水作業まで、手際よく進められた。
津波が襲った想定なのに消防車両が何の支障もなく原子炉建屋に近づけるなど、「福島並み」と言うには甘さが残る。だが、演習現場で原発担当者は「速やかに手を打ち、注水するのが大事。手段はいくつもある」と自信をみせた。
台湾には現在、3カ所の原発がある。いずれも海岸に立地。地震は比較的多い。第一、第二原発は半径20キロに台北市北部が入る。
原発をめぐっては国民党が推進、民進党が阻止の役目を演じてきた。第一~第三原発が運転を始めたのは国民党独裁下の1978~85年。正統中国の座を追われ大半の国との外交関係がなく、資源確保への思惑からも原発が推進された。
99年に第四原発の建設が始まったが、翌年、初の政権交代で民進党の陳水扁総統(現在服役中)が建設を凍結。その後国民党の反発に押されて再開したものの、設計見直しで完成予定は再三延期され、住民の反対運動も続く。このため90年ごろ電力供給の4割近くを占めた原子力の比重は今、2割前後にとどまる。
来年1月の総統選は、この問題を避けて通れない。すでに民進党の総統候補、蔡英文(ツァイ・インウェン)・党主席は「第四原発を運転させない」と明言。3原発も延命せず、2025年の「脱原発化」を目標に掲げる。現在の発電能力に余裕があり、再生エネルギーも活用すれば実現可能と主張する。
発電コスト上昇を招き、台湾企業の国際競争力にかかわるため、国民党の馬政権としては安易に乗れない。とはいえ、市民の不安を無視すれば命取りだ。17日の演習を視察した馬総統は「短期間のうちに原発をなくすことはできない。原発の安全確保が最も大事だ」と述べ、防災に万全を期す姿勢を強調した。(台北=村上太輝夫)
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