Tuesday, May 17, 2011

08/05 余録:「新製陸舟車」という乗り物が18世紀の日本に存在したという…

 「新製陸舟車」という乗り物が18世紀の日本に存在したという。彦根藩士が記述した江戸中期の文書に、ペダルやハンドルの機能を備えた人力で走る三輪車について記述されている。フランスでのペダル式自転車の発明から100年以上もさかのぼる▲もっとも、実際に日本で自転車が使われるようになったのは、明治に入ってから。西洋からもたらされたものを模し、車大工や鉄砲鍛冶などの職人が製造を始めたことからのようだ▲その自転車が、今回の東日本大震災の直後、首都圏では飛ぶように売れた。電車が運行を停止し、渋滞で車は進まない。歩いて帰るには遠すぎる。帰宅難民の多くが自転車の存在を再認識した結果だった▲とはいえ、日本の都市の道路は、自転車にとって必ずしも走りやすいようにはなっていないのが現実だ。江戸時代の“自転車”が個人の発明で終わったのも、当時の道路事情が影響したのではないかと思われるのだが、この点については、今も似たような状況があるのではないだろうか▲車道は自動車のもので、歩道は人が歩くためのスペース。法的には軽車両という位置づけが与えられているものの、邪険にされている印象がぬぐえないのが自転車だ▲製造、販売、そしてその後のメンテナンスといった形で産業に厚みがある自動車と違い、自転車の産業としての政治力は大きくない。そんな事情も背景となって、本来なら車道を走るべき自転車を、歩道に追いやっている。しかし、震災に強い都市づくりには、帰宅難民対策も重要なポイントだ。そうした観点も入れ自転車と道路の関係を見直してもらいたい。

毎日新聞 2011年5月8日 東京朝刊


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