Wednesday, September 28, 2011

28/09 原発損賠機構―東電救済に陥るな

 福島第一原発の事故賠償を支援する原子力損害賠償支援機構がスタートした。

 理事長に就任した前一橋大学長の杉山武彦氏は、賠償規模について「当面は3兆~4兆円」との見通しを示した。東京電力の純資産はすでに1兆円強にまで減っており、機構からの資金支援がなければ、すぐにも債務超過に陥る経営状況にある。

 このため、政府は第3次補正予算案で機構向け交付国債の発行枠を3兆円追加し、5兆円規模の資金を確保する。

 機構からの交付金は東電の決算上、特別利益に計上され、賠償に伴う損失と相殺される。賠償負担と日常の電力供給業務とを切り離すことで東電は利益を確保し、国に少しずつお金を返済していく、という皮算用だ。

 一方、東電は当面の代替電源として必要な火力発電の燃料代を賄うためとして、3年限定で電気料金を15%程度値上げする方針を関係先に打診した。原発が再稼働したら元に戻し、半減した社員の賞与水準も回復させることを検討中という。

 賠償支援の枠組みが整ったことで、東電が数年後には元のような経営に戻れると考えているなら、勘違いも甚だしい。

 公的資金による賠償支援は、あくまで被害者を保護するためのもので、東電救済が目的ではない。

 機構は、東電の経営状況を洗い出す政府の調査委員会が来月初めにも提出する報告書を元に、資金提供の条件となる東電の特別事業計画(10年間)をつくる。機構設立の趣旨を踏まえ、東電の手ぬるいリストラや安易な料金値上げを許さないよう目を光らせてほしい。

 仮に賠償負担にめどがついたとしても、原発事故の処理や除染にかかる費用は相当額にのぼる。何より、原子炉や燃料棒の廃棄費用の問題がある。

 廃炉は、通常でも1基500億円以上かかるとされる。ましてや炉心溶融を起こした炉の処理となれば、兆円単位にのぼるとの見方がもっぱらだ。

 事故が収束し、こうしたコストが顕在化した時点で、東電の経営が行き詰まるのは目に見えている。首都圏の電力供給を担う東電が不健全なまま事業を続ける状態が長引けば、新たな設備投資や新エネルギー開発をてこにした成長の芽も育たない。

 野田政権は、いずれ東電の法的処理が避けられないことを念頭に、脱・原発依存の方針に基づいた新しいエネルギー政策を具体化し、電力分野の活性化に向けた作業を急がなければならない。

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