@福島・いわき
- 2011/12/22 12:00
隣の女性が、すすり泣く。前に座った男性がハンカチで目元をぬぐう。12月4日、福島県いわき市の映画館「ポレポレいわき」は涙にぬれていた。スクリーンに映されたのは「がんばっぺ フラガール!」。東日本大震災で大きな被害を受けた市内のリゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」の懸命な復旧を追ったドキュメンタリーだ。
いわきは、かつて炭鉱で栄えた街。エネルギー政策の変転で苦境に陥った1960年代半ば、けん引役だった常磐炭鉱(現常磐興産)がリゾート事業を始めた。以来、半世紀近く、浮き沈みはあれど、ハワイアンズは地域のにぎわいの源だった。
「被災者は自分のつらさを重ねずにはいられないんだろうね」とポレポレいわきの管理会社、世界舘統括次長の福田まり子さん。地元ゆかりの作品ということで12年2月のハワイアンズ全面再開まで異例のロングラン上映を続ける。
同じ映画館で、今度は笑いがはじけた。12月15日に開いた初めての寄席は定員100人の会場がいっぱいに。出演した柳家一琴さんは「こんなに喜んでもらえるとは意外だった」と打ち明ける。「福島県は被災地のなかでも暗いイメージがあった。(原発事故の影響で)先が見えない状況で(落語は)難しいかなと思っていた。でも大声で笑う姿を見ると、少しずつでも前に進んでいるんだなと感じられた」
いわき市には原発周辺からの避難者も多数集まる。世界舘社長の鈴木修典さんはつぶやく。「この街は到底、復興といえる段階ではない。まだまだ復旧に手間取っている」。震災から9カ月。元の生活を取り戻せた人は少ない。鈴木さんも、福田さんも家族が離ればなれになったままだ。皆、泣かずにいられない時がある。しかし笑える時もある。年の瀬の映画館に光と影が交錯する。(舘野真治)
No comments:
Post a Comment