Thursday, December 22, 2011

社説:ウィニー無罪確定 勇み足の捜査だった


 ファイル共有ソフトの「Winny(ウィニー)」による著作権法違反ほう助罪をめぐる裁判は、最高裁が検察の上告を棄却する決定を行った結果、開発者である元東京大助手のプログラマーの無罪が確定する。

 元助手は04年に逮捕された。ウィニーの作成にあたり元助手がインターネット上の掲示板に書き込んだ内容と、ソフトのバージョンアップを繰り返していたことから、京都府警は、ウィニーが著作権侵害の目的に使われることを十分に承知していたと認定した。
 しかし、この逮捕に際しては、著作権侵害を手助けしたとして複写機のメーカーが罪に問われたり、殺人に使われた刃物の製作者が殺人罪ほう助になるのか、といった疑問が噴出した。
 また、ファイル交換ソフトはウィニー以外にも数多くある。ウィニーの開発者だけを摘発しても、著作権侵害をめぐる状況の改善にはつながらない。あいまいな基準での逮捕は日本でのソフト開発者の意欲を萎縮させることにつながりかねないといった指摘もあった。
 逮捕後、捜査当局は元助手にウィニーの改良を禁じ、欠陥を修正できなくしたことから自衛隊や裁判所、刑務所、病院などの情報が大量にネット上に流出し、回収不能になってしまった。その中には捜査情報も含まれ、警察にとって皮肉な結果をもたらした。
 技術が先に進み、法制度が想定していない状況が出現した時に、捜査当局はどう対応すべきかということもこの裁判で問われたことだ。
 1審は有罪、2審は無罪、そして最高裁の多数意見も無罪だった。新技術が及ぼす影響について、開発者が後に起こることをすべて予測することはできない。権利侵害という副作用があったとしても、開発に制約をかけかねない刑事罰の適用は慎重にというのが、この裁判で示されたことではないだろうか。
 元助手が逮捕された7年半前には、インターネットの普及による著作権侵害の拡大に、出版や放送など既存のビジネスは危機感を募らせていた。しかし、今では電子出版や動画配信などネットビジネスに積極的に取り組むようになっている。
 インターネットを敵視するだけでは何ら進展はなく、逆に、ネット時代に対応した新たな著作権の管理や保護のあり方を、社会全体で構築する方向に動いている。
 著作者と利用者にとって望ましい仕組みをつくるにはソフト開発者の協力が欠かせない。新しい技術が社会にもたらす可能性について十分に踏まえた対応を、捜査当局に対して望みたい。
毎日新聞 2011年12月22日 2時30分

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