Wednesday, June 29, 2011

29/06 天声人語 - 菜の花畑の明るさには希望と未来がある

2011年6月29日(水)付

菜の花畑の明るさには希望と未来がある。アフガニスタンの荒涼とした山を背景に、黄色が咲き乱れ、花を摘む少女の笑顔がはじけている。この国で3年前、農業指導の活動中に武装集団に殺された伊藤和也さん(当時31)が撮った写真だ▼荒廃した国で、汚れのない瞳に望みを見たのだろう。伊藤さんは現地の子らの写真を多く残した。その表情の幾つかが、昨日の国際面のいたたまれない記事に重なり合った。アフガンで8歳の女の子が爆弾入りの小包を持たされて爆死したという▼女児は何者かに頼まれて警察施設に小包を運んだ。遠隔操作装置が組み込まれていて、近づいたところで爆発した。不憫(ふびん)でならず、人間の所業とも思えない▼「長い戦争に責任ある形の終わりが来るだろう」と、オバマ米大統領は言う。先週、アフガンからの撤兵計画を発表した。だが今後、その「平和」からこぼれ落ちて消える住民の命はどれほどになろう。治安改善の実感は現地にはない▼この国を舞台に映画を撮ったイラン人監督のマフマルバフ氏が言っていた。「米軍が爆弾でなく、本を落としていたら」。識字率は男性で50%、女性は18%しかない。無知と貧困こそ、暴力とテロの温床になる▼志半ばで倒れた伊藤さんのご両親は、遺志を継いで「菜の花基金」を作った。集まった寄付金で先月、現地に学校の寄宿舎を贈った。孤児や遠隔の子らが学ぶための施設だという。先は遠いだろうが信じたい。硝煙の地に穏やかな日常が戻るときを。

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