Wednesday, June 29, 2011

29/06 B型肝炎訴訟 和解を医療態勢充実の一歩に

(6月29日付・読売社説)

集団予防接種の注射器使い回しでB型肝炎ウイルスに感染したとして、患者らが国に損害賠償を求めた訴訟は28日、和解することで合意した。

B型肝炎をめぐる最初の提訴から22年、注射器使い回しを放置した国の責任を認定した最高裁判決からも5年がたつ。

菅首相は原告の患者らに官邸で面会し、「被害の拡大を防げなかったことは、責任者として断腸の思いです」と謝罪したが、あまりに遅いと言わざるを得ない。

和解合意により、肝がんや肝硬変など、感染に起因する症状に応じて3600万~50万円の和解金が支払われる。

行政の対応が遅れた原因を究明する第三者機関や、B型肝炎の治療充実を検討する協議会の設置も和解条項に盛り込まれた。

全国で約730人が提訴した集団訴訟は解決に向かう。だが、原告は感染者の一部に過ぎない。

合意の枠組みで救済対象となる感染者は、約40万人と推定され、国は今後30年間で最大3・2兆円の和解金が必要と見ている。過去に例のない“巨額賠償金”だ。

B型肝炎ウイルスは血液などを介してうつる。国は、予防接種を義務づけた1948年以降、注射器使い回しの危険性を知りながら必要な措置を取らなかった。

この間、免疫のない乳幼児期に予防接種を受けて感染した人は、キャリアーと呼ばれる症状のない状態が数十年続いた後、慢性肝炎を発症した。肝硬変や肝がんになり、死亡した人も多い。

救済対象となるのは、こうした人たちだ。医療行政の不作為の被害者と言えるだろう。

キャリアーの人は、感染に気づいていない場合も多い。その人たちを早期に発見する検診態勢と治療法を強化することで、発症を食い止められれば、和解金の総額も抑えられる。肝炎対策の充実は、その意味でも重要だ。

当面の救済策に、数千億円規模の財源は必要となろう。政府は増税を検討しているが、東日本大震災の復興や、膨らむ社会保障費の財源にも増税は不可避だ。

国民の納得を得るためにも、設置される第三者機関が、感染拡大を招いた医療行政の責任を厳しく問うことは最低条件だろう。

和解合意を実行するために、財源の手当ても盛り込んだ特別措置法案も与野党協力で成立させなければならない。

党派を超えて取り組むべき課題が、さらに一つ、政治に背負わされたと言えるだろう。

(2011年6月29日01時21分 読売新聞)

No comments:

Post a Comment