世界が再発見した日本の強さと弱さ 編集委員 藤井彰夫
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- 2011/4/11 7:00
藤井彰夫(ふじい・あきお) 85年日本経済新聞社入社。経済部、ニューヨーク、ワシントン、経済金融部次長、編集委員兼論説委員などを経て、09年9月から欧州総局(ロンドン)編集委員。内外のマクロ経済・金融を担当。
東日本大震災から1カ月。大震災は日本に大きな災禍をもたらし、いくつもの悲劇が生まれた。世界も生々しい大震災の映像にショックを受け、日本に緊急支援の手をさしのべた。そして世界は日本を再発見し始めたようだ。
・3月27日フォーブス誌「福島原発とリーマン・ショックの共通点 リスクについての理解不足」 |
・3月29日フィナンシャル・タイムズ紙「世界の自動車産業を襲う日本製部品の不足」 |
・4月4日ワシントン・ポスト紙「At Chernobyl, warnings for Japan(チェルノブイリから、日本への警告)」 |
・4月4日ニューヨーク・タイムズ紙「Japan to Release Low-Level radioactive Water Into Ocean(日本、低レベルの放射能汚染水を海洋に投棄へ)」 |
・4月6日フィナンシャル・タイムズ紙「不屈の日本、復興が政治に決断迫る」 |
・4月7日日経朝刊3面「原発説明 後手の外交」 |
大震災前、日本は世界のレーダー・スクリーンから消えていた。欧米の新聞などでも1面に日本関連の記事が出ることはまれで、出たとしても「中国の国内総生産(GDP)が日本を抜いて世界2位になった」という脇役的な扱いだった。日本の政治についても、首相があまりに頻繁に交代するため、新首相が誕生しても大きな扱いになることはなかった。
月(国際) | 藤井彰夫 |
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火 | 竹中平蔵 慶大教授 |
水(企業) | 西條都夫 |
木(国際) | 脇祐三 |
金(企業) | 田中陽 |
欧米のシンクタンクや大学などが主催するシンポジウムや世界経済フォーラム(ダボス会議)などの国際会議でも、日本自体が話題になることは少なく、人々の関心は中国、インドなどアジアの新興国に集まった。
それが今回の大震災で一変した。ようやく最近は一段落したが、震災直後の1週間程度は欧米のどの新聞も連日1面トップで日本の状況を伝えていた。
メディアだけでなく欧米の大学やシンクタンクは相次いで、日本に関連したシンポジウムや会議を開催している。にわかに世界の注目を集めた日本。世界は自然災害の猛威に大きな衝撃を受けると同時に、これまで気がつかなかった日本をあちこちで再発見している。
まずはすでに日本でも繰り返し報道されているように、大災害でもパニックに陥らず、略奪、暴動などもなく整然と救援・復興に取り組む日本の強さだ。
■世界の製造業を支える日本製部品
同時に再発見されたのは、世界経済の中で日本の「ものづくり」がいかに重要な役割を果たしているかだ。日本の被災は世界の製造業のサプライチェーン(供給体制)を揺さぶり、欧米工場の自動車などの生産に影響を及ぼした。これまで中国製だと思っていた製品にも、実は日本製の電子部品が使われていることなどが改めて欧米メディアで紹介された。
大震災直後にロンドンの朝食会で会った英国人のコンサルタントは自分のスマートフォンを見せて、「これもかなりの部分は日本で作られているんだって…」と語りかけてきた。
欧米メディアでは、バブル崩壊後、長期にわたって経済が低迷し、高齢化・人口減という構造問題を抱える日本は「沈みゆくかつての経済大国」というイメージが強かった。一方で年率10%の高成長を続ける中国には大きな関心が寄せられていたが、今回の大震災で「GDPは中国に抜かれたが、まだまだ世界経済に影響力を持つ日本」という認識が生まれたようだ。
■原発事故への対応を疑問視する欧米メディア
ただ再発見は良い面だけではない。震災から1カ月して欧米メディアの最大の関心は、地震から被災した原子力発電所問題に移った。この問題については、日本政府や東京電力の情報開示の仕方や日本の問題対処能力への疑問が強まっている。「日本は原発や耐震の技術水準を誇っていたが、本当なのか」という「負の再発見」が起きているようだ。
近隣諸国に事前通告なしに放射能に汚染された水を海洋投棄し始めたニュースに、世界は鋭く反応した。また危機時の政治家や企業トップの指導力を問題視する議論も出てきた。
世界からこれだけ注目されている今、日本から世界にどういう情報を伝えられるかは極めて重要だ。良いことも悪いことも、従来では考えられないほどの速さと大きさで世界に伝わるようになっている。政府も企業もそれを意識した情報発信が必要になる。
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