Tuesday, March 27, 2012

増える「孤立死」…時代映す遺品整理業 記者同行ルポ


2012.3.27 12:07 (1/4ページ)westナビ

孤立死した男性の部屋で遺品を整理する専門業者「メモリーズ」のスタッフたち=大阪府内(柿平博文撮影)
孤立死した男性の部屋で遺品を整理する専門業者「メモリーズ」のスタッフたち=大阪府内(柿平博文撮影)
 都会などで人知れず息絶える「孤立死」が社会問題化する中、遺族に代わって故人の遺品を整理する仕事が注目を集めている。周囲に忘れ去られたように亡くなった人の最期を紡ぐような仕事で、高まるニーズは問題の深さを映し出しているようでもある。大阪の業者の遺品整理に同行した。
「年3万人超の自殺者より多い」
 3月上旬の昼下がり、大阪府内のとある駅近くのワンルームマンションを、府内で初めて「遺品整理士」の資格を取得した専門業者「メモリーズ」(堺市)スタッフの川上理々子さん(48)らと訪れた。表札のないドアを開けると、折り込み広告を挟んだままの大量の新聞が玄関口や廊下に散らばっていた。
 この部屋には60代半ばの男性が1人で暮らしていたが、誰にも看取られずに、病気で亡くなったらしい。目の前に散乱する新聞は、少なくとも10日分以上はありそうで、その間、男性の死は誰にも気づかれなかったのだろう。
 かすかに異臭の残る部屋に足を踏み入れる。男性の生活拠点だったらしい奥の6畳間は、電気をつけても薄暗い。4本の蛍光灯をセットする照明器具には3本しかなく、点灯するのは1本だけだ。
親族は立ち会わず…1枚の写真も無し
 ベッドに目がくぎ付けになった。床にずり落ちるような形でシミができ、茶色く変色している。「この体勢で亡くなられたのでしょう」と現場経験を積んだ男性スタッフ。その痕跡が、生と死の近さを象徴しているように思え、静かに手を合わせた。
 ベッド脇の床には飲みかけのグラスやパック入りのさばの棒ずし、中身が判別できない茶色い物体がこびりついた鍋、ガスコンロなどが乱雑に置かれていた。川上さんら4人のスタッフは、遺族に返却する貴重品類やリサイクルできるものを分類し、見落としがないかを注意深く確認しながら遺品を整理していった。
 男性は親族とは長年没交渉だったらしく、この日も親族の立ち会いはなかった。孤立死では珍しいことではなく、遺族から故人の情報を伝えられることも少ないという。それでも川上さんは「遺品を通じて、亡くなった方の人生の一端に触れている」と話す。
 部屋には1枚の写真も、趣味や交友関係を思わせる物もなく、男性がどんな人物なのか分からない。ただ、壁ぎわにきれいに積み重ねられた新聞や、丁寧に折りたたまれたたんすの中の下着や服に、本来は几帳面(きちょうめん)と思われる男性の性格を垣間見た気がした。
 すべての遺品を運び出して掃除機をかけ、雑巾がけをし、作業は2時間弱で終了した。がらんとした部屋から、男性の痕跡は消えていた。
高齢化…増えるニーズ
 「メモリーズ」の横尾将臣社長(43)によると、同社が平成22年に受けた遺品整理の依頼は460件。遺族自身が高齢で作業ができない▽男手がなくタンスなどの大きな荷物を運び出せない▽遠くに離れて暮らしている-などのニーズが背景にあるという。
 このうち孤立死は158件(34・3%)を占める。横尾社長は「最近(報道などで)取り上げられるようになったが、一部に過ぎない。年々増えている」と指摘。そもそも孤立死の定義さえ明確でないため正確な統計はなく、「(年間3万人を超える)自殺者の数より多いはずだ」というのが横尾社長の実感だ。
 高齢化や核家族化が進み、22年の国勢調査で1人暮らしの世帯は最多の32・4%に達した。横尾社長は「遺品整理の現場でさまざまな人間模様を見てきたが、人とのつながりを失いがちな現代のライフスタイルを見直さなければ孤立死は増える一方だ」と訴える。
 遺品整理の需要の高まりとともに、参入業者も急増している。しかし、特別な資格は必要なく作業に明確な基準もないため、遺品の紛失や高額請求などによる遺族とのトラブルや、作業で出たごみの不法投棄が問題になるケースもある。
 業界の健全化を図ろうと、北海道内のリサイクル業者などが昨年9月、社団法人「遺品整理士認定協会」(北海道千歳市)を設立し、「遺品整理士」の養成を始めた。作業手順や心構え、供養の仕方、関係する法律などをテキストやDVDで学び、試験で一定水準以上の得点を得ると資格を取得できる。今月19日現在、全国で78人が認定されている。


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