Sunday, August 7, 2011

25/07 編集手帳


7月25日付 

 <今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません>。出征した夫に届いた妻からのハガキ。夫は軍の検閲を嫌って返事を書かず、ハガキを読んだという言づてを戦友に託したことから数奇な物語が始まる◆来月6日に封切られる新藤兼人氏の映画『一枚のハガキ』である。言いたいことを言えない状況が人の運命を変えていく。話の筋を追いながら、戦時中の日本人に似た不自由さに今も耐えている人々のことを思い出した◆アラブ諸国の独裁者に対する民衆の抗議デモは、秘密警察が監視網を巡らすシリアでも起きている。在米シリア人女性はネット上の映像に、抗議に参加した郷里の母の姿を見つけた。実家に電話すると、父が答える◆「行くなと言っても、母さんは病院通いをやめないんだ」。米紙が伝えるエピソードである。「壁に耳あり」の生活を何十年も強いられてきたシリア人には、隠語を使って身を守る習性が染みついているのだという◆それに比べれば、指導者の“自由な”発言に振り回される今の日本はまだ幸せなのだろう。「早くお辞め」と言い返せるのだから。
(2011年7月25日01時27分  読売新聞)

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