2011/7/7付
海江田万里経済産業相が6日、全国の原子力発電所でストレステスト(耐性調査)と呼ぶ追加的な安全検査を実施すると表明した。地震や津波に襲われたとき、原発の設備が安全基準で定めた水準に対し、どの程度の余裕があるか調べる検査だ。
福島第1原発の事故を受け、ほかの原発で安全性を念入りに確かめること自体は妥当だ。しかし、定期検査で止まった原発の再稼働をめぐり地元が厳しい判断を迫られているなか、唐突な追加検査の実施表明は混乱に拍車を掛けている。
経産相はこれまで地元自治体に再稼働の要請を続けてきた。一方で、原発事故の発生から4カ月近くたっていきなりテスト実施を持ち出した。本来なら事故直後に始めるべきテストを、なぜ、この時期に実施すると発表したのか、理解に苦しむ。
定期検査で停止中の九州電力玄海原発2、3号機では地元が再開を容認する姿勢だった。だが佐賀県知事は「テストを待って判断するのが妥当」と、結論を先送りした。地元の自治体や住民は困惑し、かえって不信感を募らせている。
このままでは54ある原発すべてが1年以内に止まり、電力不足が深刻化して経済全体に影響が及ぶ。経産相は危機回避へ全力を尽くすというが、それを乗り越えるための具体的な手立てを示さなければならない。
菅直人首相はテスト実施の理由を自ら丁寧に説明すべきだ。首相は中部電力浜岡原発について政治判断で停止を指示し、これが発端になってほかの原発の運転再開が遅れている面がある。首相は佐賀県知事との面会も先送りしているが、これではあまりに無責任ではないか。
福島第1原発の事故を受け、欧州連合(EU)は域内の原発で素早くストレステストに着手した。日本でも実施する以上、細目を早く示し、国民が信頼できる検査体制を整えることが欠かせない。国の原子力安全委員会が関与し、「ダブルチェック体制」を機能させる必要がある。
原発の新設や運転再開では、まず原子力安全・保安院が安全性を審査し、それを安全委が重ねて点検する仕組みを取っている。班目春樹委員長はストレステストで大きな弱点が見つかれば「対策を実施するまで運転をすべきではない」と述べた。
安全委は原発事故へ対応が後手に回ったことで批判を浴び、政府は原子力安全を担う組織を再編する方針だ。しかし今の事態は急を要する。ここはひとまず安全委が「原子力安全の番人」たる役目を果たさなければ、その存在意義はない。
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