Thursday, June 9, 2011

04/06 天声人語

 メガロポリスの排気に白く煙って、巨柱の群れが天を突く。約30棟の超高層ビルが林立する東京・西新宿の威容だ。その第一号、京王プラザホテルの開業から明日で40年になる▼山手線の外側には都市型ホテルが珍しい時代。170メートルは当時の日本一、それも出入り自由の客商売とあって、副都心の構想はぐっと身近になった。創るべき街があるのは、まだ成長できる証しだ。造りに造り、60メートル以上の高層ビルは全国に千棟を超す▼先の地震で、超高層の林はゆっくり、しなるように揺れた。大地が突き上げる衝撃を総身で吸収し、十数分かけて逃した。耐えたビル群はきょうも、残照の中に変わらぬ輪郭を連ね、赤い障害灯を明滅させている▼震災以来、どっしりと、いつもそこにある不動産の安定感がいとおしい。建設、開発の言葉にも久々の出番が回ってきた。「動かざるもの」への憧れは、移ろう現実の裏返しでもあろう。世の中、「ふらふら」が多すぎる▼内閣不信任案の否決で収まるかに見えた政局が、菅首相の退陣時期で荒れている。「震災対応に一定のメドがついた段階」とはいつか。月内にもという空気に逆らい、首相はふらふらと年内はやるつもりらしい▼これでは被災者支援どころではない。私利や党略をしばし離れ、それこそ建設的に、難局に向かう才知と気概を求めたい。〈足りない所はあるが、全身の誠意でぶつかれ〉。40年前、不慣れでコチコチの従業員に向けた京王プラザ社長の言葉を、与野党に贈る。

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