Wednesday, December 7, 2011

07/12 年金見直し どうなるの?――保険料増え受け取り減、反発多く

ニッキィの大疑問

2011/12/7 (1/3ページ)
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年金の議論がずっと続いているわ。将来にかかわる大事な話だけれど、制度が複雑で、問題点も分かりにくいのよね。いったい私たちの年金はどうなるの?
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政府が年金制度の見直しを進めている。年金を受け取り始める年齢の引き上げなど議論は幅広いが、異論も噴出し、簡単にはまとまりそうにない。年金制度は今どうなっているのか、将来も安心できるのか。中川恭子さん(46)と山田美香さん(27)が生活情報部の山口聡編集委員に聞いた。
▼基本的な仕組みと現状を教えてもらえますか。

「年を取ることなどで働けなくなり、収入がない人の生活を社会全体で支えるのが公的年金です。働く現役世代から国が保険料を徴収し、それを年金として高齢者に渡すのが基本的な仕組みです。現役世代が生む富の一部を高齢世代に分ける世代間の助け合いですね」
「20歳以上のすべての国民は『国民年金』に加入します。国民年金は基礎年金とも呼ばれます。会社員なら『厚生年金』、公務員は『共済年金』に入るのですが、自動的に国民年金にも加入しているのです。自営業者などは国民年金だけとなります。原則としていずれかに合計25年以上加入すると、老後の年金が受け取れます」
「現在、国民年金の人は月平均で5万円を超える年金、厚生年金の人は国民年金部分も合わせ16万円ほどの年金を受け取っています。高齢者世帯の約6割は年金だけで生活しています」
▼大事な制度なのに根幹が揺らいでいるそうですね。
「少子高齢化が進み、年金をもらう高齢者が増えるのに、保険料を支払う現役世代が減っているからです。経済が停滞し、現役世代が生む富がかつてのように増えないことも問題です。このような状況で制度を維持するため、保険料負担は増やし、年金は減らすという改革が断続的に20年以上続いています」
「計画では、今は会社員の収入の16%程度である厚生年金保険料が最終的に18.3%まで上がり、年金は将来実質的に今より20%ほど減る見込みです。今60歳から支給している厚生年金を徐々に65歳からとする改革も進んでいますが、これも年金支給額を減らす方策の一つです。ただ人々の反発が強く思い切った改革ができないのも事実です」
▼現在どのような改革案が議論されているのですか。
「政府は医療、年金などの社会保障の安定した財源を確保するために消費税率を引き上げようとしていますが、これに合わせて年金制度の一部は充実させ、一部は引き締めようとしているのです。充実面では、年金額が少なく生活が苦しい高齢者に額を加算することなどが課題としてあがっています。引き締め面では、厚生年金の支給開始年齢を今決まっている65歳よりさらに引き上げて、68歳からとする案などが出ています」
「このほか、サラリーマンの夫を持つ専業主婦は保険料を払わなくても国民年金が受け取れる『第3号被保険者制度』という仕組みもこの機会に見直す動きがあります。働く女性などから不公平との声が出ているためです。ただし、いずれの改革にも強い反論があり、政治も不安定であるため、どこまで実現するかは不透明です。支給開始年齢のさらなる引き上げなどはすでに頓挫しつつあります」
▼将来、私たちもちゃんと年金をもらえるのでしょうか。
「公的年金の財源としては保険料のほかに税金も投入されています。国が保険料や税金を徴収できなくなって年金も支給できなくなるということは日本国が破綻している状態ともいえるので、簡単にそんなことにはならないでしょう。ただ、人口構造から見ても、保険料は増え、年金が減るのはある程度仕方ありません。今の計画より増減が激しくなる可能性も十分あります。現役世代と高齢者の双方が痛みを分かち合うしかないわけです。これからは年金だけで暮らすのは厳しく、自助努力も大切です」
「もうひとつ大事なのは、安定した社会をつくることです。年金は信頼できないと嘆くより、年金の担い手を少しでも増やすため子供を産み育てやすい環境を整え、少しでも日本経済を成長させることが重要です。住民同士で支え合い、助け合うことができる地域づくりも進めたいですね」
ちょっとウンチク
「皆年金」制度 揺らぐ50年目
2011年は今の公的年金制度の基本的な形ができてちょうど50年の節目の年に当たる。その形とは国内に住むすべての人が公的年金に加入するということ。「国民皆年金」と呼ばれる。海外でも「皆年金」を実施している国は多くはなく、日本の制度の大きな特徴でもある。しかし、近年はこの制度から漏れて老後に年金がない人が増えつつあることが問題となっている。
公的年金は勤め人を対象とする厚生年金や共済年金からまず始まった。その後、自営業者や農林漁業従事者にも年金は必要との声が高まって、これらの人を対象とする国民年金が1961年から始まり、皆年金が達成された。ただ農林漁業者の減少が進み国民年金の財政は悪化。このため、86年に複雑で大規模な改革が実施され、国民年金は全国民が加入する共通部分に、厚生年金や共済年金は国民年金に上乗せされる部分として生まれ変わる。
その後も問題は続く。派遣など厚生年金に入らない非正規労働者が増えたのだ。この人たちは収入も少なく、毎月国民年金の保険料を払うこともままならない。このような人たちを「皆年金」にどう取り込むかが大きな課題となっている。
(編集委員 山口聡)
中川 恭子さん 飲食関連機器販売会社勤務。ファイナンシャルプランナーの資格取得を目指し勉強を始めた。「ライフプランを自分でしっかり設計したいと考えました」
山田 美香さん 印刷会社勤務。要らないモノを捨てる「断捨離」を実践中。「最低限の持ち物にするため、雑誌などを思い切って処分しました。気持ちいいですね」
[2011/11/21/日本経済新聞 夕刊]

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