大阪府河内長野市の架橋工事で、福島県郡山市の建設会社が製造した橋桁を使うことに、地元住民から放射能汚染への不安の声が上がった。発注元の府は工事を中断した。
6日の参院復興特別委員会で、自民党の岩城光英氏がこの問題を取り上げて、「悲しい話だ」と述べた。同じ思いを抱いた人は多かっただろう。
野田首相は、科学的知見に基づく安全性の周知徹底を約束し、「万全を期す」とした。
建設会社が検査業者を通じ橋桁表面の放射線量を測定したところ、年間許容被曝 量の上限を下回る数値だったという。
大阪府の橋下徹知事は、「現状では(安全性に)問題ない」と住民に説明不足をわびた。 だが、なぜ中断を決める前に、検査を実施しなかったのか。府には、福島の人たちから「なぜ中断するのか」との抗議もあった。
震災から半年以上も経過してなお、風評被害がやまない。
復興支援のつもりの行事が、逆に被災地の人たちを傷つける出来事も全国で相次いだ。
「京都五山送り火」で8月、岩手県陸前高田市の景勝地「高田松原」の松を使った薪 を燃やす計画が、二転三転し中止になった。
愛知県日進市の花火大会では9月、福島県川俣町の花火が愛知県産と差し替えられた。
福島の農産物支援ショップを計画した福岡市の市民グループは、放射能汚染を心配する住民らの苦情で、計画を断念した。
住民には、放射能への不安があるのだろう。必要なのは、不信感を払拭する見識と努力である。
それには、事前に専門家の知見を借りて、科学的なデータをそろえるなどの準備が要る。
実際、陸前高田市の松については、千葉県の成田山新勝寺が、専門機関に依頼し、放射性物質が検出されなかった結果を受けたうえで、護摩木祈願を行った。こうした対応は参考となろう。
大切なのは、住民に対し、丁寧な説明を心がけることだ。
支援しようとする被災地とも密接に連絡を取り合い、きちんと打ち合わせをする。こうしたことも疎 かにはできない。
行政や主催者の善意の迷走は、風評被害の上塗りとなる。被災地の心情に配慮し、長く支援を続けていく姿勢が求められよう。
県外避難した子どもたちの、いわれなき差別も明らかになっている。福島の人たちを、これ以上悲しませてはならない。
(2011年10月9日01時21分 読売新聞)
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