Sunday, July 3, 2011

03/07 余録:「あの、こらえ性のないアイスクリームは…


 「あの、こらえ性のないアイスクリームは、私たちの憧れだった」。村上春樹さんと糸井重里さんによる、カタカナ言葉を辞書のように並べたショートショート集「夢で会いましょう」(講談社文庫)のソフトクリームの項には、そうつづられている(この項は糸井さんが執筆)▲「コーンの底の、深い網目みたいな部分を、なごり惜しみながらコリッコリッと食べているうちに」おいしかった味を忘れてしまうとも。確かに、あの甘さには少し、はかなさのようなものが漂っている。好物だという人には、それもたまらない魅力かもしれない▲ソフトクリームといえば、近年はコンビニの人気商品だ。また、「ご当地ソフト」があちこちでつくられ、バニラやチョコレートだけでなく、さまざまな味が楽しめるようになった▲7月3日はソフトクリームの日だそうだ。60年前の今日、東京・明治神宮外苑で開かれた米軍主催のカーニバルの模擬店で、日本で初めてコーンスタイルのソフトクリームが販売されたという。これにちなんで、日本ソフトクリーム協議会(メーカーで構成)が制定した。今年は、初販売から数えると還暦ということになる▲かつて中曽根康弘元首相が鳩山由紀夫前首相を「ソフトクリームみたいな」と批評したことがある。96年のことだ。愛とか、友情とか、美とかいった話はおてんと様が出たら消えてしまうという比喩だった。鳩山さんらが旧民主党を結成する前の話だ▲あれから、15年。それでは現首相の粘り強い姿勢は、どんなスイーツにたとえたらいいか。猛暑になっても、なかなか溶けないから、氷菓ではないようだ。
毎日新聞 2011年7月3日 東京朝刊

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