Wednesday, June 22, 2011

22/06 余録:紙をざっと大きめに切り、そのあと少しずつ…

 紙をざっと大きめに切り、そのあと少しずつ切りながら貼り合わせる場所に形を合わせようとする。起こることはただ一つ、気がつくと切りすぎているのだ。子どものころの工作での話である▲だがあらかじめ最適の方法が分からない技術開発の現場では、ちょっとずつ紙を切るように方法を変え、一番うまくいく策を見つけるしかない。英語の「カット・アンド・トライ」は、そんな意味の試行錯誤を指している▲だが切りすぎてはいけないぶっつけ本番、しかもその策の一つ一つにこの国の運命がかかっているとすれば、はさみを握る手も震えよう。装置の運転開始と共に予想外のトラブルが相次ぎ、手探りでの対応が続けられる福島第1原発の高濃度汚染水の処理作業である▲除染した水を原子炉冷却に循環使用する安定化計画の基軸をなす汚染水処理だ。だが海水や汚泥をふくむ大量の汚染水を処理せねばならぬ原発事故での除染は、装置を造った米社や仏社もいまだ経験していない。トラブルの一つ一つが人類が直面する初の試練なのだ▲その難題に立ち向かう技術者と作業員の懸命のカット・アンド・トライが続く現場である。なのに今、国の中枢で繰り広げられているのは国会の会期延長と首相の退任時期をめぐる駆け引きのカット・アンド・トライだ。こちらはどう切り貼りしても結果はむなしい▲もどかしいが、こと原発のトラブル処理には現場へ声援を送るしかない。ではそれ自体がこの国のトラブルと化したように見える政治はどうするか。はさみは国民の手にあるが、切っていくと何もなくなってしまう工作の悪夢が思い起こされる。
毎日新聞 2011年6月22日 東京朝刊

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