6月22日付
死を目前にして、あなたが人生の最後に、聴きたい、口ずさみたい歌は何だろう? 演出家の故・久世光彦さんにはそのことをテーマにした随筆集(『マイ・ラスト・ソング』、文芸春秋刊)もあるが、多くの人はあの歌、この歌…と迷うことだろう◆66年前、沖縄・喜屋武岬の海岸で最後の歌を選んだ人がいる。宮城喜久子さん(82)は当時16歳、戦場に動員された「ひめゆり学徒隊」生存者の一人である◆『婦人公論』(中央公論新社刊)6月22日号で作家小林照幸さんが宮城さんを取材している。深夜、蛆 が負傷兵の傷口から膿 を食べる音が響く戦場の生活は、凄惨 を超えて酸鼻に近い◆銃火に追われ、自決用の手榴弾 を手にした宮城さんと三人の友は最後の合唱をした。兎 追いしかの山…「歌ったことで我に返った」という。このまま死ぬのはあまりに悲しい、と。10万人におよぶ住民が犠牲になった沖縄戦の終結は6月23日、「慰霊の日」がまためぐってくる◆震災後、復興の祈りをこめた歌声を聴いた。唱歌『故郷 』は人生に別れを告げる歌ではなく、人生がいっそう愛 おしくなる、そういう歌だろう。
(2011年6月22日01時36分 読売新聞)
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