Monday, May 23, 2011

22/05 天声人語

2011年5月22日(日)付

 ひとくちに二十四節気と言っても、知名度にはばらつきがある。立夏、夏至という主役級にはさまれて、小満(しょうまん)と芒種(ぼうしゅ)は渋い脇役を思わせる存在だ。きのうはその小満だった。「陽気盛んにして万物長じ、草木が茂り天地に満ち始める頃」と本にある▼今の季節、夏のスピードは速い。初々しかった若葉はたちまち茂りを濃くし、緑となって湧き上がる。田んぼの稲も負けてはいない。立夏のころ、借りている棚田で田植えをした。水面から首を出し、心細げに風に吹かれていた苗が、はや伸び盛りの勢いである▼だが今年、被災地には作付けのできない水田が広がる。辛うじて難を逃れた田で植え付けが始まったと、東京で読んだ紙面が報じていた。周囲には今も無残な瓦礫(がれき)がうずたかい▼「一粒一粒の米を大切に育て、秋には家を流された親戚たちに食べさせたい」。農家の言が胸にしみる。夏の青田は瑞穂(みずほ)の国、日本の原風景だ。青々と育ち、やがて黄金に波打つ稲は、きっと人々を励ますことだろう▼〈粒粒皆辛苦(りゅうりゅうかいしんく)すなはち一つぶの一つぶの米のなかのかなしさ〉。詠んだのは東北出身の斎藤茂吉だった。粒粒皆辛苦とは米作りのきびしさを言う。戦前は小作制度や飢饉(ききん)も農家を苦しめた。いま、空前の災厄に米どころは沈む▼他の例にもれず農地再生でも国は鈍い。希望への処方箋(しょほうせん)はいつ書かれるのか。遅れた正義は無いに等しい、の格言を思い出す。正義を「策」に換えても通じよう。季節に負けぬスピード感が今こそほしい。

No comments:

Post a Comment