Thursday, October 6, 2011

06/10 天声人語 - Wall Street 「史上最大のバーゲン」

2011年10月6日(木)付

 「格安買い」と訳せばいいのか、後世に「史上最大のバーゲン」と呼ばれる取引が17世紀の米大陸であった。オランダの西インド会社が先住民からマンハッタン島を「買った」ことを言う▼払ったのは、はした金程度の酒類や日用品だったそうだ。のちに島はニューヨークの中心となる。ご存じの繁栄と富の集中を思えば、まさに格安だった。初期の移住者は、先住民や外国の攻撃に備えて島の南部に丸太の壁(ウォール)を築いた。それが、世界の金融を引っ張る街の名の始まりという▼その街を「強欲資本主義の象徴」と非難する若者らのデモが広がっている。「ウォール街を占拠せよ」が合言葉。貧富の格差への怒りはネットで増殖し、全米に飛び火している▼3年前のリーマン・ショックは経済を揺るがし、米では金融機関に公的資金が注入された。なのに懲りもせず富を独占し、一方で貧困層は増え続ける。失業率は9%を超え、若い層はより厳しい。怒りはもっともだろう。背景を思えば政府も黙殺できまい▼オバマ大統領は就任演説で「富裕層だけを利していても国は繁栄できない」と高らかに語っていた。オバマ氏には若い支持者が多かった。抗議行動は、民主党大統領への期待の残り火であるとともに、裏切られた思いの異議申し立てでもあろう▼17世紀のウォール街の防壁は、その後に木からレンガに変わり、銃も備えられたそうだ。時は流れていま、牙城(がじょう)に富と財を囲う一握りに、広い共感が集まるとは思えない。

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