Tuesday, June 21, 2011

21/06 余録:ある農民が地面を耕していると…

 ある農民が地面を耕していると、埋まっていた金塊を見つけた。イソップ物語にある話だ。農民は大地の女神ガイアの恵みと思い、毎日ガイアの像に花輪をささげる。ところがある夜、運の女神テュケーが夢枕に立って、怒りながら言った▲「こらっお前、金は私が授けたのに、何でガイアに礼をするのだ。そんなやつらに限って、金を無駄遣いして失ってしまうと、運の女神である私をとがめるのだ」。他の女神の御利益とされては黙っていられなかったのか▲古代ギリシャの運の女神テュケーは、貨幣にもその像が刻まれた富の女神でもあった。人間は幸運も富も授かるときは知らんぷりなのに、いざ自分たちの落ち度でそれらを失うと私を恨む--テュケーはイソップの別の話でも恩知らずな人間の身勝手を嘆いてみせる▲昨年5月の総額1100億ユーロの支援策でいったんは落ち着きを見せていたギリシャの財政危機が再燃した。追加支援の条件となる財政緊縮法案がギリシャ国内の大反発を招いて政局が迷走、デフォルト(債務不履行)の見通しが公然と論じられ、市場も動揺を続ける▲デフォルトになれば、信用不安はユーロ圏の他の国も直撃し、一挙に世界的金融危機の再来となる。うまくいっている時はもてはやされたユーロだが、こうなってみればギリシャでも、その支援国でも、国民の不満と恨みをかって「崩壊」とまでささやかれる始末だ▲ユーロ、つまりエウロペという他の女をあがめたことからしてご立腹かもしれぬ運と富の女神だ。ここは運まかせにはできない。政治の確固たる意思としなやかな知恵が試されるユーロ危機克服だ。
毎日新聞 2011年6月21日 東京朝刊

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