Monday, June 20, 2011

20/06 余録:韓国の人々は「6・25」を決して忘れない…

 韓国の人々は「6・25」を決して忘れない。朝鮮戦争開戦の日付だ。今週土曜はその61周年にあたる。怒濤(どとう)のような北朝鮮軍来襲で始まった戦火の犠牲はあまりに大きく、しかもこの戦争は正式には今も終わっていない▲休戦協定締結後も北側からの襲撃や爆弾テロが続く一方、「南北和解」と見えた時期は短かった。昨年も韓国領の島への砲撃事件など、流血の武力挑発があった。「6・25」が記憶に焼き付くのは当然だろう▲それなら日本人はどうか。仮に真珠湾攻撃の日付がおぼろげでも、よもや「8・15」を忘れはしまい。原爆の惨禍に続く国家敗亡という、痛恨の記憶なのだから▲とはいえ終戦は、平和な空の下での再出発でもあった。朝鮮戦争特需をきっかけに繁栄への道をたどる。北朝鮮が韓国にもたらしたほどの「いつまで続くか分からない危険と心労」を国民全体が味わうことはなかったと言えよう。少なくとも今年の「3・11」までは……▲これは東京駐在の韓国紙特派員との問答の要約である。彼は近ごろ憂鬱だという。取材対象の日本に、元気がない。福島第1原発事故の状況が一進一退の危機なのに、政治のリーダーシップが見えない。外国人まで気がめいる、と▲「3・11」の衝撃は日本の敗戦より朝鮮戦争に似ているようだ。恐るべき災いが突然、来襲し、多くの人命を奪っただけではない。いつ収束するのか見通しもつかない「放射能との闘い」に悪戦苦闘している。だが、考えてみれば放射能に「悪意」はない。敵というより、人間が作り出した毒物をコントロールする作業だ。ひたむきな努力がいずれ実ると信じよう。
毎日新聞 2011年6月20日 東京朝刊

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