Monday, June 20, 2011

20/06 編集手帳


6月20日付

神々からの罰として主人公が巨岩を山頂に運び上げるが、岩は常に頂からころげ落ちてしまう――フランスの作家、アルベール・カミュによる「シーシュポスの神話」の有名な一節だ◆3か月余に及ぶ福島第一原子力発電所の事故対応の困難さを見ていると、この不条理な苦行の神話さえ連想される。無論投げ出す訳にはいかない。一日も早い事故収束へ政府は全力を挙げてほしい◆今回、日本の原発で重大事故は起きないという「安全神話」が崩壊した。だからと言って、原発の安全確保が不可能であるかのような「危険神話」に陥り、「脱原発」に走るのは別の意味で危うい◆既に多くの教訓がある。政府が国際原子力機関(IAEA)に提出した報告書には28項目の安全強化策が示された。津波の想定規模の再検討や非常用電源の多重化、炉心冷却機能の確保などだ。まずは、この対策を着実に実行したい◆真理は中庸にありと言われる。「安全神話」にも「危険神話」にもくみせず、安全性を高めた原発を使い続ける。それが日本の英知を結集し、目指す道だろう。神話とは、人間が克服すべき対象なのだから。
(2011年6月20日01時17分  読売新聞)

No comments:

Post a Comment