Saturday, April 2, 2011

02/04 自粛しても委縮はしない。

2011年4月2日

灯の消えた銀座4丁目方向(3月28日、PM9時ごろ筆者撮影)

 春とは言え、まだまだ寒さが続く毎日です。被災地の人々には本当に辛い日々と思われます。講演などで何度か訪れた岩手県の釜石市や久慈市の友人らとようやく連絡が取れ、詳細が分かるにつれ、彼らの心情は我々などがとうてい計り知れるものではないことを実感します。天候など構っておられないほどの惨状で、「生きていることが不思議だ」とも言う。片づけの手を止めては茫然として辺りを見回し、落胆し、自力で何とかするしかないと覚悟し、自らを励まし、なぐさめ、そしてまた気を取りなおすことの繰り返しと言う。

 阪神大震災以降の2000年前後、厚生労働省(当時は厚生省)援護課による「大規模災害救助研究会」で私は専門委員を務めました。震災直後からの5年間において、避難所生活から仮設住宅の建設、そして復興への道について分析研究しました。例えば長引く避難所生活で求められていたものは、大空間の中での各自のプライバシーを確保しつつ(前回参照)水場や仮設トイレなど設置することでありました。また、被災地ごとのコミュニティづくりなど日常をどう暮らすかのソフト面や、さらに衣食住とともに「医職充」や情報伝達の重要性などについて提案。仮設住宅の早期の建設のために建設場所を設定したり、公園や校庭などに地下槽を設けて、当面はそこに医療テントなどの災害用品を備蓄し、その後その槽を一時的な屎尿溜め(しにょうだめ)にしたりすることなどを提言しました。


「地震に勝つ家 負ける家」(山海堂)

 しかしながら、今回の災害はあまりにも広範に渡り、巨大津波によって街が根こそぎ被害を受けており、入り組んだリアス式の地形の複雑さにも圧倒されて、阪神と比較する方策すらなく、あんたんたる思いでいます。業界仲間は、実際に現地に入って仮設住宅を建てるにしても、津波への恐怖感から人々が海抜にこだわっていて、高台の平坦なところがなかなか見つからず困窮(こんきゅう)していると言います。まずは壊滅した自治体の仮庁舎をつくるところからのスタートになると思いますが、今後については私の知り得る限りの方策を少しずつお伝えして参りたいと思います。

 あれから3週間が経ち、今も身内が見つかっていない友人も多い中、驚くべきはそんな彼らが気丈にも「私たちは津波だけだった。南相馬など原発周辺の人たちはさらに大変だ」と気遣っていることです。さらに避難所のテレビで知った暗くなった銀座や渋谷の繁華街の映像を見て、「自粛は良いが、産業や商売が“萎縮”しては経済が衰えてむしろ困る」などと心配もされていることも合わせてお伝えしたい。




「転ばぬ先の家づくり」(祥伝社)

 津波による原発の重大事故の収束は火急ですが、それによる停電や極端な節電で、鉄道、さらには産業すべてが萎縮してしまうことは、大きな二次災害とも言えるでしょう。それでは過酷な生活を強いられている被災地の人々の救援や復興活動にも影響し、遅れることにもなりかねないのです。鉄道はもとより、医療・福祉は最優先で、さらには産業や職場の電源はなんとしても確保すべきで、商店や飲食店もせめて看板と商品へのライティングぐらいはすべきです。

 計画停電をするなら、地域エリアごとに消す“計画”だけではなく、工場やオフィスなどの操業時間の調整や、夏場に向けて冷房の温度設定など、限られた総電力量のバランス“計画”を緻密に練ることが大事でしょう。我々もそれに合わせて、夕げの支度など生活時間の調整やクーラーなどの使用計画を立てるのです。これで毎日の生活をむやみに暗くする必要もなくなるのではないでしょうか。

 取りあえずこれから先の2,3か月、関東は冷暖房の必要のない季節となります。節電をこまめにしつつも、被災した友人が言うように、自粛、自粛と言って街を、商店を、そして職場をむやみに暗くして、消費意欲を阻害したり、労働意欲を萎縮させたりすることがあってはなりません。停電を恐れてコンサートや催事などを取りやめず、各職場はむしろ今まで以上に明るくしっかり働き、消費を、そして雇用を増やす勢いで努めて平生の生活を送ることが、災害からまぬがれた私たちの務めではないかと思うのです。

 こんな時だからこそ、読者の方に阪神大震災直後に出版した拙著「地震に勝つ家 負ける家」(山海堂)と、この3月に出たばかりの「転ばぬ先の家づくり」(祥伝社)を各10名様に謹呈いたしたいと思います。ご応募は私のプロフィールのホームページから、どちらのご本がご希望かを明記の上でどうぞ。


天野彰(あまの・あきら)
岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1-5-1/TEL03-3469-1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

No comments:

Post a Comment