2012.02.24
成績不振の小中学生を「留年」させる-。大阪市の橋下徹市長(42)がぶち上げた教育改革が波紋を広げている。「尾木ママ」の愛称で人気の教育評論家、尾木直樹・法政大教授(65)が20日付の新聞紙上で提案した大阪の子供の学力底上げ策に橋下氏が“乗った”格好だが、「留年」という言葉が独り歩きし教育界は大揺れだ。尾木氏を直撃すると、言い出しっぺだけに協力姿勢を示したが、他の橋下流教育改革はバッサリ斬って捨てた。
発端は20日付の読売新聞夕刊に掲載された「橋下維新を考える」という連載記事だった。
この中で尾木氏は〈小学校で九九ができなければ、留年させてでも面倒をみる。(小中学校でも)留年させても府民の子供の力をつけてもらう、というのを橋下さんが出してきたら僕は大喝采します〉とコメントした。この斬新な教育論に橋下氏が反応し、掲載翌日には大阪市教育委員会に検討要請までしたというのだ。発端は20日付の読売新聞夕刊に掲載された「橋下維新を考える」という連載記事だった。
あまりの速さに尾木氏も「もう、びっくり」と戸惑いを隠さない。
「子供たちに対する基礎教育の徹底は、人権保護にも等しい重大なものです。しかし、日本の学校システムは成績が悪くても機械的に進級、卒業させてしまう致命的な欠陥がある。これを以前から指摘してきました。橋下さんのスピーディーな判断には、基本的に拍手喝采なのですが…」
慎重な言い回しで、何か奥歯に物が挟まっているような印象も受ける。どうやら、尾木氏は、持論が正しく伝わっているのか危ぶんでいるのだ。
「日本で言う留年は、『履修主義』の現行教育に基づく罰則的イメージですが、私が言いたいことはその真逆です。欧州では常識なんですけど、個々の習熟度合いに応じて、科目ごと臨機応変に、教師と生徒、保護者が学ぶ時間を主体的に選択できるようにすべきというのが趣旨なんです」(尾木氏)
小中学校の留年制度を導入するオランダでは、科目単位で多くの生徒が自ら留年を選択し、学力を高めるシステムが構築されている。カリキュラムに縛られた文部科学省の指導要綱から脱し、勉強し直せる環境を整備するのが尾木氏の真意だ。
「橋下さんも十分ご理解頂いていると信じています。ただ、型にはめて、上から押さえつけたがる橋下さんが『留年』を口にすると、とたんに『進級させないぞ!』という強圧的なイメージが先行してしまいそうで…。橋下さんの手にかかると『留年』という言葉が独り歩きする恐れがあると思うのです」(同)
こうした尾木氏の懸念は、橋下氏が28日にも市議会に上程する「君が代条例案」によるところが大きい。
市立学校の卒業式や入学式などで君が代を斉唱する際、教職員に起立斉唱を義務づけ、日の丸掲揚を義務化するというもの。大阪府知事時代に成立させた、府立学校の教職員に対する条例と同じ内容で、3回の職務命令違反で分限免職となる。
「国歌斉唱の問題を見ても、橋下さんの考えには大いに賛成しますが、手法が拙速すぎる。国家や国旗をここまで尊重しない国は珍しいけど、橋下さんほど現場を強制する指導者はいない。もちろん、問題は一部の教師の側にあるわけですが、まずは現場の教師と膝詰めで議論してほしい。それをやってから、組織に隠れる問題教師を“強制的”に引きずり出せばいいのです」(同)
同じく、橋下氏が提唱した府立高校の「超エリート校構想」「3年連続定員割れ高校の統廃合構想」も問題視する。
進学実績の高い府立高10校を進学指導特色校に指定し、成績最上位層の生徒を囲う方法。後者は、3年連続で志願者が入学定員を割り込んだ高校は統廃合も辞さないという案。どちらも橋下流教育改革の目玉だ。
「最低の愚策です。なかでも成績上位の子を一部の学校で囲い込むやり方は、高度成長期の詰め込み暗記主義(的社会)でしか通用せず、生徒の人間的成長は望めません。世界中を見渡しても成功した例はない。東大や京大などの有名大学に入れたところで、世界的に通用しないどころか、就職すらおぼつかないでしょう」(同)
尾木氏も、高い学力と人間力を併せ持ち、世界に通用する若者の育成を目指す橋下氏に異論があるわけではないが、その手法を危惧している。
「学校の選別や生徒の囲い込みではなく、留年制を含む基礎教育を施すこと。そして、中高は原則6年の一貫制。進路変更は柔軟に応じ、欧州のように進学から職業訓練まで、さまざまなニーズに応じた質の高い専門教育を実施する。卒業のハードルを大学入試並みに厳しくすることが、学力と人間力を相互に高める王道だと考えています」
橋下氏に真意は伝わるか。
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