2012/02/24 10:12
厚生労働省が4月から適用を予定している放射性セシウムの新基準値では、新たに「乳児用食品」の基準が設定され、一般食品(1キロ当たり100ベクレル)の半分の同50ベクレルとした。厚労省は「子供が放射性物質の影響を受けやすいとされる点に配慮した」と説明する。
これに対し、消費者団体「フード・コミュニケーション・コンパス」事務局長の森田満樹さんは「乳児用食品だけ別に基準を設けることで、『一般食品を子供に食べさせるのは危ない』と思った人もいるのではないか。実際は一般食品の基準でも十分安全に配慮したものなのに、その説明はほとんどなされず、消費者の不安は解消されないままだ」と指摘する。
ただ、福島県では最も精度の高い「ゲルマニウム半導体検出器」が22台あり、測定時間は今でも30分以上かけており、新基準でも検査数は変わらないという。同県いわき市も3月中に簡易検査器を新たに5台購入。検査場所を現在の1カ所から6カ所に増やすことで、新基準でも十分な検査が行える体制を整える。
しかし、検査数は維持できても、人件費を含めた検査費用は新基準では明らかに増えることが予想される。「基準値超え」となる食品は流通させてはいけないため廃棄処分となり、生産者への補償や廃棄のための費用もかかる。
安全のために必要な検査なら「いくら費用がかかってもいい」と思う人も多いだろう。しかし、現在の基準値でも食品中の放射性セシウムは十分低く保たれており、新基準になっても内部被曝(ひばく)線量はほとんど変わらない。
◆10兆円超?
安全・安心のための検査としては、10年前に国内で発生した牛海綿状脳症(BSE)対策で行われた肉牛の全頭検査がある。BSEの安全対策には特定危険部位の除去が何より大事で、全頭検査をやってもBSE感染牛を取り除ける可能性は少なく、世界的には科学的に意味がないとされる。
近畿大学農学部の有路昌彦准教授(食料経済学)は「BSEで全頭検査などの対策で社会が負担した費用は約1兆円。BSEは食肉だけが対象だが、放射性物質は全国全ての食品が対象のため、新基準導入で検査費用と損失は最終的に10兆円を超えるのではないか。その費用は全て税金か消費者負担。小さいリスクに多額の費用をかけることで予算不足が生じ、本当の大きなリスクへの対応ができなくなる事実を社会全体は直視すべきではないか」と話している。
■「検査結果より産地」77%
農産物を購入するときに気をつけているのは検査結果ではなく産地-。「食の安全・安心財団」(東京都港区)が行った、食と放射能にかかわる消費者の意識調査でこんな結果が出た。
調査は1月、全国の2000人の男女を対象に実施。それによると、東京電力福島第1原発事故後も以前と変わらず食材を購入しているのは約6割。農産物購入の際に気をつけていることでは「検査結果の確認をせず産地を気にする」が77%で最も多く、「自主検査を判断の目安」(5%)、「ホームページで検査数値を確認」(4%)と、実際の検査結果を確かめる人はごくわずかだった。
外食も同様で、外食の際に気にしていることとして「放射能の自主検査実施」を挙げたのは0.9%しかいなかった。
今回の新基準について厚労省は「消費者の安全・安心のため」と説明するが、消費行動においては、ほとんどの人が食品の放射性物質を気にしていないことがうかがえる。
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