Monday, September 26, 2011

26/09 新しい公共の世紀へ―市民の力で社会を変える


行政を担うのは、だれか。そんなの役人に決まっている。

私たちはずっと、そう考えてこなかったか。だが、そろそろ発想を変えてみよう。もっと市民、住民が主役になるべきではないのか、と。

いわゆる「新しい公共」という考え方だ。

利点は、役所の合理化にとどまらない。市民がみずからの意思で参画し、「公」の責任を分かち合うことで、やりがいや生きる価値も見いだせるはずだ。そんな前向きな発想である。

行政はいま、国も地方も、低成長による税収減と、高齢化に伴う行政需要の膨張にあえぐ。この窮状を打開するカギとして「新しい公共」を考えてみる。

行政を立てなおす取り組みには、二つの潮流がある。

ひとつは「小泉・竹中改革」のような小さな政府路線だ。「官から民へ」を掲げ、行政コストを下げて増税を避け、企業活動の活力や消費を生もうとする。労働人口が減っていく日本では、著しい経済の成長は望みにくい。活力を引きだそうと考えれば、「官から民へ」の手法は一定の説得力を持つ。

もうひとつは増税路線だ。福祉社会を維持する費用を社会全体で担おう。高齢人口が増え、膨らんでいく福祉予算を賄うには増税しなければならない。借金を続ければ、いずれ日本もギリシャのような債務危機になりかねないと警告する。

■ウィン・ウィン関係

だが、どちらにも危うさが潜む。「小さな政府」は行政が担うべき役割を放棄して、弱者に厳しい格差社会を招く恐れがある。増税論は納税者の財布を直撃し、消費など国内経済をしぼませかねない。

そこに「新しい公共」の出番がある。

原発事故で避難を強いられた福島県双葉町の人々が多く暮らす埼玉県加須(かぞ)市には、ユニークな事業がある。「ちょこっとおたすけ絆サポート」だ。

買い物の代行や病院への付き添い、庭の草むしり……。誰かの手を借りたい人は、商工会が発行する「絆サポート券」を買う。1枚500円で1時間の支援サービスを受けられる。支援するサポーターは、商工会に登録した市民だ。09年度の開始から、1500時間分の券が売られ、高齢者らの利用が広がる。

券は市内の商店などでの買い物に使えるので、お金が地元に落ち、地域経済を元気づける。サポーターは券とともに、人々の役に立つことで精神的な満足感も得られる。市は商工業をてこ入れでき、福祉充実の経費を抑えられる。それぞれがメリットを享受できる「ウィン・ウィン」の関係だ。

埼玉県も資金を援助した。「ただし3年間。立ち上がりは助けるが、担うのは市民。継続するには、やってみて市民自身がその価値に気づくことが大切だ」と、上田清司知事は話す。

■大震災を契機に

東日本大震災の後、民間の復興支援サイト「助けあいジャパン」が立ち上がった。政府の情報を市民が加工し、避難者の生活を応援し、ボランティアの便宜を図っている。費用は手弁当だ。「民間なので、あえて公平にこだわることなく情報を出すなど、小回りがきくのが強みです」と、運営する佐藤尚之さん(50)は言う。

大震災の義援金が象徴するように、この国にも寄付文化が拡大しつつある。後押しする制度もできてきた。前の国会で成立した改正NPO法と税制改正法だ。寄付額の約半分を納税額から直接減らせる方式になり、税の配分を自分で判断できる範囲が広がった。「新しい公共」づくりへの大きな一歩になる。

この流れをさらに加速させよう。それには「公」が担うべき施策なら、まずは市民の手でできないのか、と考える気風を国全体に広げていくことだ。

その前提としては、市民が担った方が、より質の高いサービスを実現できることが欠かせない。同時に「行政の下請け」にならない仕組みが要る。英国では、NPOなどと政府、自治体が「コンパクト」という合意文書を結び、下請け関係に陥らない制度を用意している。日本でも知恵を絞ろう。

■政治の責任は重い

「新しい公共」づくりに向けた制度づくりに、政治が果たすべき役割は大きい。とりわけ政権交代を機に、政策として提示した民主党の責任は重い。鳩山政権は旗を振ったが、菅政権は増税路線が先に立ち、野田首相の所信表明演説には「新しい公共」の言葉すらなかった。

しかし、大震災の後、ボランティア活動の領域と、かかわる人々の数は確実に増大している。市民の知恵と力が、社会を変える大きなうねりになりそうなエネルギーを感じ取れる。

「市民が主役」が党名の由来である民主党であれば、これを好機と捉え、いまこそ「新しい公共の世紀」を築いていく覚悟で取り組んで欲しい。

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