Monday, August 1, 2011

01/08 天声人語

2011年8月1日(月)付

 競争相手のことを言う「ライバル」の語源がラテン語の「小川(rivus)」なのはよく知られる。元は「川の水をめぐって争う者」の意味という。古来、水がいかに貴重だったかの証しだろう▼恵みの雨は慈雨とも喜雨とも呼ばれる。だが天は往々に加減を失する。〈時により過ぐれば民のなげきなり八大龍王(はちだいりゅうおう)雨やめたまへ〉。大雨の被害が相次いだ建暦(けんりゃく)元年(1211年)夏、鎌倉幕府の若き将軍源実朝(さねとも)が仏に祈ってしたためた一首だ。そして、800年を経た今年も災いは繰り返された▼新潟と福島の記録的な豪雨では、40万もの人に避難指示や勧告が出た。川は濁流となって猛(たけ)り、亡くなった人もいる。予報技術は進んだが、人の意が天に及ばないのは昔と変わらない▼日本の水はゆたかで、世界平均の倍の雨が降る。しかし、その多くが梅雨や台風でもたらされるのが泣きどころだ。夏出水(でみず)、秋出水と季語にも言う。いわば水害と背中合わせの「ゆたかさ」であり、毎年どこかで痛手をこうむる▼片や世界に目を向ければ、深刻な干ばつの大地がある。アフリカのソマリアでは370万人が飢餓状態だと記事にあった。小さく細る子が痛々しい。夕立の雲をあげたいものだが、縄で縛って連れても行けない▼実朝の歌中の八大龍王は水や雨をつかさどる神を言う。温暖化する地球はいま、強い雨がより狭い地域で降る一方、降らない地域が広がる傾向にあるそうだ。気候変動にも思いをはせたい、きょうは「水の日」である。

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