2011/6/27付
「シカゴパイル」。世界初の原子炉は、暗号のようにこう呼ばれた。米シカゴ大に極秘に造られた実験炉で、初めて原子の火がともったのは1942年。「イタリアの航海士が新世界に上陸した」。実験の成功はこんな会話で伝わった。
▼実験は米国に亡命したイタリア出身の物理学者が主導した。「イタリアの航海士」の異名がついたゆえんだ。研究は米政府の機密計画の一環で、ねらいは原子爆弾の開発にあった。主要国が実用化にしのぎを削るなか、シカゴパイルの成功は新兵器に道筋をつけ、米国による広島、長崎への原爆投下へとつながる。
▼戦後になって、世界は原子力の平和利用の道も競いはじめた。「原子力を平和のために」。53年のアイゼンハワー米大統領の国連演説がきっかけだ。世界で初めて発電用の原子炉を稼働させたのはこんどはソ連だった。モスクワ近郊のオブニンスク原発だ。運転を始めたのは54年6月。きょうがその記念日という。
▼まだ60年に満たない原発の歴史。この間に米国はスリーマイル島、ロシアはソ連時代にチェルノブイリで大事故を起こした。それなのに米ロは原発推進の旗を降ろしていない。核兵器を持つ国ゆえの自信なのだろうか。かたや、非核を唱えながらも「新世界」に足を踏み入れた日本。その原発政策の行方はいかに。
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