Sunday, June 26, 2011

26/06 余録:「何という悲しい時代を迎えたことでしょう」という書き出しで…

 「何という悲しい時代を迎えたことでしょう」という書き出しで始まる小冊子を妻の友人で、3児の母親が自宅に持ってきてくれた。「まだまに」こと「まだ、まにあうのなら」(地湧社)だ▲小欄で以前紹介した「もしドラ」こと「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の約270万部には及ばないものの、87年の発売以来50万部を超えるロングセラーを続けている▲原発推進の愚かさをつづった「まだまに」はチェルノブイリ原発事故の翌年、出版社に届いた母親からの手紙をまとめた。福島原発事故後、英語版などを収録した増補版を緊急増刷したところ、「脱原発」のバイブルとして再び読まれ始めているという▲関西では、電力会社の社長が節電要請の行脚に出かけた。停止中の原発を再稼働したくても地元自治体の同意が得られない中、大阪や滋賀の知事から「脱原発」や「卒原発」を求められても「国策」である原子力事業の是非を一民間企業が判断するわけにはいかない▲私たちは賠償金が数兆円とも試算される福島原発事故を体験して、原子力事業は、いったん事故が起きれば会社の存在さえも危うくするものであることを知った。抱えるリスクとコストの巨大さが明確になった今、マネジメントの神様なら何と言うだろう▲温室効果ガスを排出しないことを理由に「クリーンエネルギー」として、もてはやされた原子力だ。電力会社社長になり代わって、事故後の逆風を国に訴える手紙をしたためるとしたら、書き出しはこれしかない。「何という悲しい時代を迎えたことでしょう」
毎日新聞 2011年6月26日 東京朝刊

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