きょう19日は父の日。ちょっと照れながらネクタイやハンカチなどを贈ったりした経験がある人も多いだろう。ふだんはなんとなく水くさいのが父と子だ。胸に秘めた「ありがとう」を年1回、形にしてみるのも悪くはない▲じかに渡したくても、かなわぬ願いがある。あしなが育英会への特別一時金申し込み状況によると、東日本大震災で両親か一方の親が死亡・行方不明となった0歳から大学院生までの子どもは、17日現在で1374人。このうち父をなくしたのは765人だ。申請しない人を含めれば、遺児はもっと増える▲育英会の募金開始行事では、宮城県の小学6年、阿部翼君の「今度はぼくがお父さんのかわりにお母さんを守っていきます。だから、お父さんは安心して天国へ行ってください」という作文が紹介された▲父の日は今から100年ほど前、ある米国人女性が男手ひとつで育ててくれた父を思って制定を働きかけ、墓前に白いバラを供えたのがきっかけとされる。もともとは、父を追慕する日だったのだ▲住民を避難させるため最後まで職場に残った人。家族を救おうと家に戻った人。制止を振り切り船を陸揚げしようとした人。命とひきかえに大切なものを守ったおおぜいの父。そこに共通する精神を、海外メディアは「センス・オブ・デューティー」と呼んだ。どんな状況でも自分の役割を果たそうとする使命感の気高さ▲震災遺児たちは、父への深い感謝と、これから歩む人生への決意を口にする。癒えない悲しみの中、今日は海に向かって白いバラをたむける子もいるかもしれない。花言葉は「心からの尊敬」である。
毎日新聞 2011年6月19日 東京朝刊
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