Friday, June 17, 2011

17/06 余録:「〇〇は、ちょっとエビの味さえする。…

 「〇〇は、ちょっとエビの味さえする。この味は蝗(いなご)の串焼きにもあるが、この方が強い。しかしおそろしく堅く、汁が少なく、本物の羊皮紙の一片をかむようである。私はアリストテレスが称(たた)えたこの食物を誰にもすすめることはよそう」▲ファーブルの「昆虫記」の一節だが、〇〇とは何か。実はオリーブ油数滴、塩、玉ねぎ少々で味付けしたセミの裸蛹(らよう)のフライである。米国のハワードという昆虫学者もやはりセミのフライを食べてエビを連想し、こちらは美味といえぬが結構いけると感じたようだ▲米学者がセミを食べたのは17年や13年ごとに大発生するセミが果樹園などに被害をもたらすため、食品として利用できぬか研究されたからだという(「世界大博物図鑑」平凡社)。米中西部のミズーリ州では、今年がその13年ゼミの大発生の年にあたっているという▲外電は、続々出現するセミを材料にしたアイスクリームが人気を呼んだが、衛生当局の勧告で販売を打ち切ったなどというこぼれ話を伝えている。店頭には「2024年まで品切れ」と張り出されたというのが話のオチだ。どうやら「研究」は今も続いているらしい▲世代ごとに正確に13年や17年という素数年をかけて成虫になる周期発生の理由については諸説あるが、卓抜な生き残り術の結果のようである。13年前の1998年といえば、日本では旧民主党などが中心になって菅直人初代代表の下で今の民主党が発足した年だった▲今は首相になったこちらの13年ゼミも夏限りの命運といわれるが、なかなかしぶとい生き残り術を見せる。煮ても焼いても食えぬのは試すまでもない。
毎日新聞 2011年6月17日 東京朝刊

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