Friday, May 13, 2011

13/05 余録:なますといえば、今はダイコンとニンジンの千切りを…

なますといえば、今はダイコンとニンジンの千切りを合わせ酢であえた紅白なますを思い浮かべる。だが、もともと漢字で書けば「膾」または「鱠」、獣や魚の生肉を細切りにした料理のことだ。なますというのも「生肉(なましし)」が転じたとされる▲万葉集には鹿を詠んだ歌に「吾(あ)(鹿)が肉は御膾料(みなますばやし) 吾が肝も御膾料……」、つまり自分の肉も肝も大君に供するなますの材料だというところがある。また日本書紀には雄略天皇が狩りの獲物を料理人になますにさせるか、自分で料理すべきかを問うくだりがあった▲当時の日本人は肉のなますをよく食べていたようだ。だから今日も「肉膾」を好む人が少なくないのは分かる。韓国語のユッケは漢字で書くと「肉膾」なのである。ただそれを供する人々の衛生感覚まで古代同然では困る▲4人の死者を出した「焼肉酒家えびす」のユッケによる集団食中毒で牛肉の生食にともなう危険を初めて知った方も多かろう。ユッケはよく食べられているのに、そもそも国の生食用衛生基準を守って出荷される牛肉はないのだと聞けば、キツネにつままれた気分だ▲しかも警察に対し、ユッケの肉を卸した業者は生食用に使うと思っていなかったといい、店側は卸売業者が生食用の処理をすませていたはずと話している。責任の所在は今後の捜査で明らかにされようが、お客の生命を守る衛生管理まで細切りにされてはかなわない▲国はようやく衛生基準を見直し、生肉を扱う店の規制強化に乗り出すという。「羹(あつもの)に懲りて膾を吹く」は心配性の人のことだが、厚生労働省は熱くないがゆえの膾の危険にあまりに無頓着だった。

焼き肉店集団食中毒:県が立ち入り検査開始 生肉扱う店舗・業者など /鹿児島
毎日新聞 2011年5月13日 東京朝刊

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