Tuesday, March 22, 2011

22/03 搾りたて生乳6トン、無念の廃棄処分 被災で出荷滞る

2011年3月22日8時1分

タンクに満載された約6トンの搾りたて生乳は畑にまかれ廃棄処分された=20日、茨城県小美玉市

搾乳機を使い15分ほどかけて乳を吸い出す。1日で一頭あたり平均30キロほどの生乳がとれる=茨城県小美玉市

 震災の影響で茨城県内の酪農家が搾った生乳を出荷できず、廃棄処分を余儀なくされている。牛乳メーカーの工場や貯蔵施設が被災して集乳が滞っているためだ。21日までに主なメーカーの半数が操業を再開。県内の酪農組合も農家からの集乳を始めつつあるが、通常の生産量にはほど遠い。放射能汚染の風評被害への不安も広がっている。

 わずか2時間前に搾ったばかりの生乳が、車の6トンタンクから勢いよく畑にまかれていく。3分ほどでタンクは空になり、ほのかに甘いミルクの香りが漂ってきた。

 生乳を廃棄処分していたのは、同県小美玉市の美野里地区で、祖父の代から酪農業を営む男性(38)だ。「仕事ができるだけでも幸せなのかもしれません。でも、やっとの思いで搾った生乳を捨てなければならず、本当に悔しい」

 この農場では乳牛400頭を飼育。1日あたり12トンの生乳を生産している。震災で出荷ができなくても、毎日2回は機械で搾乳する。乳がはり炎症を起こす「乳房炎」から乳牛を守るためだ。

 震災直後、停電で機械が動かず、発電機を稼働させるまで丸1日搾乳できなかった。牛舎に入ると、うなり声が響いた。「早く搾って」と言わんばかりに多くの乳牛が近寄ってきて、怖いくらいだったという。

 搾った生乳は、県内3カ所にある貯蔵施設「クーラーステーション(CS)」に一時的に集められる。その後、県内の乳業メーカー7社を中心に配送される。

 だが、メーカーは軒並み被災。約300トンを保管できる県央CS(笠間市)が操業停止になり、集乳はストップ。搾っても自分の畑に廃棄処分せざるを得なかった。

 震災から10日が経ち、この農場の損失は1200万円を超えた。「収入ゼロなのに、人件費などの出費はかさむ。借金をしないとしのげない……」とため息をつく。

 被災したメーカー工場では、徐々に操業が再開されている。だが、通常の生産量には遠く及ばないのが実情だ。

 県央地域のメーカーは18日から再開したが、生産量は通常の15%ほど。紙パック工場が被災したため容器が足りず、配送車の燃料不足で販売店に卸す予定が立たない。担当者は「通常の体制になるまでに時間はかかる」と話す。

 一部メーカーの再開を受けて、県内の多くの酪農組合でも21日から集乳が本格的に始まった。が、メーカー側に、全量を受け入れる体制は整っていないため、CSがいっぱいになると、再び廃棄処分せざるを得なくなる可能性があるという。「メーカーの早い復帰を待つしかない」と県酪農業協同組合連合会。

 男性の農場でも出荷が始まったが、地震のストレスやエサ不足で乳量が落ちている。「昨夏の猛暑の影響がやっと薄れてきたところだった。エサを増やしても、通常の量に戻るのに数カ月はかかるだろう……」

 福島第一原発の事故による風評被害も心配だ。

 政府は19日、福島県内の生乳から基準を超える放射能が検出されたと発表。21日、同県に出荷停止を指示した。

 男性は「ただでさえ、牛乳の消費量は年々減っている。風評被害を長引かせないためにも、政府は安全性をもっと強調してほしい」と願う。(東郷隆、今直也)

No comments:

Post a Comment