Saturday, March 17, 2012

深よみエンタ:相次ぐ「孤立死」 山口美江さんの悲報も=佐藤雅昭


 「孤立死」「孤独死」という見出しがこのところ新聞やニュース番組でよく目につく。東京都立川市で相次いだ2件の事例、そして東日本大震災から1年の11日には足立区西新井のアパートで高齢男女が、さらに14日にも埼玉県川口市でお年寄りが亡くなっているのが見つかった。むろん都会だけに限ったものではない。震災の仮設住宅の入居者では昨年4月以降、岩手、宮城、福島の被災3県で「孤独死」した人が22人に上っている。

つらい話だ。立川市のケースには腹立たしさも覚える。2月にマンションの一室で母親と障害を持つ男児が死亡しているのが見つかり、3月7日にも都営アパートで90代と60代の母娘と見られる遺体が発見された。市はアパートを管理する都住宅供給公社から「住民と連絡が取れない」と通報を受けながら、5日間も放置していたことが明らかになっている。
市と公社の会見を見たが、責任のなすりつけ合いに終始しているように映った。市は「公社が踏み込むかどうか判断すると思っていた」と釈明し、公社は「2人暮らしなので緊急性はない」と判断したそうで「入室判断には親族の了解が必要で、難しいケースだった」とも付け加えた。
確かにプライバシーの問題はあるのだろう。しかし「2人暮らし」がなぜ「緊急性なし」につながるのかの根拠や「親族の了解」を取るべく動いたのか、など幾つもの疑問点があったのも事実。
芸能界にも悲報が届いた。タレント山口美江さんの死だ。横浜で1人暮らしをしていた山口さんが自宅でひとり亡くなった。享年51。所属事務所によると、2月から動悸(どうき)やめまいを訴えて通院していたが、病状が急変したと見られている。8日昼ごろ、近所に住む親戚の女性が連絡が取れないことを不審に思い、訪ねて死亡している山口さんを発見。愛犬が周りをグルグル回っていたというから言葉もない。事件性はなく、7日に病死したものと判断された。
上智大学外国語学部を卒業し、バブル時代の1987年に「CNNヘッドライン」に出演。流ちょうな英語で元祖「バイリンギャル」と呼ばれて活躍した。「しば漬け食べたい」のセリフが流行語にもなったフジッコのCMも人気を呼び、89年公開の映画「あ・うん」にも出演。板東英二(71)が扮(ふん)した製薬会社のサラリーマン水田仙吉が入れ揚げる芸者を演じていた。90年代に入ると日本テレビ「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」などのバラエティー番組にも進出。お笑いタレントや歌手との交際が報じられたこともあった。その一方では激やせや激太りが話題となることもあり、96年4月には頭痛薬の飲み過ぎで救急車で搬送され、自殺未遂?と騒動になったこともある。
この年9月に芸能界を引退し、横浜中華街に輸入雑貨店を開店するなど商売も始めたが、その一方では同居していた父親が04年にアルツハイマー病と診断され、壮絶な介護生活を送った。父は06年9月に永眠したが、最近は自らの介護体験を本にしたり、講演をこなしたりしていた。
頻繁に行き来していた親戚が近くにいてくれたから早い発見につながったが、願わくば息のあるうちに見つかっていれば……と思う。山口さんも「孤立死」といっていいだろう。隣近所との付き合いが希薄になっている現代の日本。行政もあてにならないとなれば、独居者の不安は募るばかり。地震のときだけでなく、緊急時の対処方法を考えておくことが肝要だ。<スポーツニッポン編集委員・佐藤雅昭>
毎日新聞 2012年3月17日 東京夕刊

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