Saturday, November 12, 2011

“犯罪の温床” 偽装ラブホの実態とは…


産経新聞
2011/11/12 12:32

偽装ラブホテルの捜索に入る兵庫県警の捜査員=11月1日、兵庫県養父市
偽装ラブホテルの捜索に入る兵庫県警の捜査員ら=11月1日、兵庫県養父市

 【衝撃事件の核心】
 ビジネスホテルを装い、実態はラブホテルとして営業している「偽装ラブホテル」。“犯罪の温床”などの批判から、偽装ラブホを厳しく取り締まるため、今年1月に改正風営法が施行された。改正法施行後、規制対象になった客と従業員が対面せずに利用できるシステムになっているとして、兵庫県警生活環境課などは11月1日、風営法違反容疑で兵庫県養父市の偽装ラブホなどを家宅捜索した。偽装ラブホはどう変わったのか。家宅捜索を受けた偽装ラブホに潜入した。
 ■摘発対象
 兵庫県養父市八鹿町のホテル。捜索容疑は、今年7~10月、県条例で営業が禁じられた区域内にもかかわらず風営法上のラブホテルを営んだとしている。
 旅館業の許可を受けていたが、県警は、フロントで従業員と客が接することなく、部屋に備え付けられた「小窓」で料金を精算するシステムなどが法改正後のラブホテルの定義にあたる疑いがあると判断した。
 現場に行くと、そこは山間を流れる川のほとりにある2階建てホテルだった。ベージュと茶色を基調にした外観で、県道をはさんだ向かいには山林が広がる。周辺は作業場や畑が点在するが、民家はない。付近一帯は県条例でラブホの営業禁止区域になっている。
 カーテン付きの個別ガレージに車を止めると、頭上に部屋番号や部屋の写真、「準備中」の文字が表示されたモニターパネルが点灯していた。車を降り、ガレージ奥の部屋へ進む。扉に手を掛けようとすると、中年の女性店員に「お客さん?」と呼び止められた。
 「警察が来る前はそのまま部屋に入れたんですけど、これからはフロントで鍵渡さなくちゃいけなくなって」。申し訳なさそうな素振りで、ルームキーを手渡してきた。
 室内は赤い照明、ダブルベッド脇の避妊具、洗面台の大きな鏡…。内装はラブホさながらだ。ただ、アダルトグッズの自動販売機の中身は空っぽ。出入り口付近に設けられた自動精算機は紙幣の投入口がふさがれていた。摘発後に違法状態を解消したのだろう。通常の出入り口とは別の扉にB5用紙大の小窓があった。張り紙には「ルームサービス受取り口」とあり、これもラブホテルと認定された一因だ。
 内線電話でチェックアウトを告げると、「お支払いはフロントへ…」。出入り口の扉が解錠された。薄暗い通路を進むと、入室中を示すオレンジ色のランプがちらほら灯っている。客入りはまずまずのようだ。ビジネスホテルとは決して言えないが、ラブホテルにもなりきれていない-。偽装ラブホは、何とも中途半端な印象だった。
 ■対面式で客減少懸念
 「ラブホテル」は、風営法で店舗型性風俗特殊営業に位置づけられ、営業には公安委員会への届け出が必要だ。今年1月の風営法改正前は、食堂やロビーが一定の基準より狭い構造で、室内にアダルトグッズ自動販売機▽回転ベッド▽全身が映る巨大な鏡-などの設備を備えている施設がラブホテルと定義されていた。
 それが改正法では、新たな「ラブホテル」の定義として(1)サービスタイムなどの休憩料金表示やカーテンなどによる入り口の遮蔽(2)フロントなどの遮蔽や従業員と対面せずに個室に入ることができる構造(3)室内に自動精算機などを設置-が加わった。
 前出の偽装ラブホは、利用客が駐車場から直接部屋に入ることができたうえ、部屋の「小窓」で料金を支払うシステム。改正法による新たな定義に照らすと、まさにラブホテル。関係者によると、客層によってルームキーの受け渡しや料金の精算方法をフロント対面式と小窓式で区別。客の多い週末は客同士の鉢合わせを避けるため自動精算機も使用していたという。
 関係者は「ここは田舎だからラブホは市内に数軒しかない。都市部と違う土地柄なので対面式は導入しづらかった。対面式の徹底で地元の中高年層は利用しにくくなる。売り上げは落ちるだろう」と打ち明けた。
 ■立ち入り権限なし
 偽装ラブホは全国で横行している。警察庁は偽装ラブホでなく「類似ラブホ」と呼んでいるが、偽装ラブホがはびこる原因として、ラブホの営業区域制限が挙げられるという。
 風営法は学校や図書館などの施設から200メートル以内でのラブホ営業を禁止。さらに各自治体の条例で商業地域以外での営業を禁止している。しかし商業地域は市街地に集中している上、兵庫県内の商業地域は全域の0・2%に過ぎず、商業地域のない自治体もある。業界関係者は「地方のラブホは地元経営者が多いのに、立地できる場所が限られている。禁止区域で営業するためビジネスホテルの許可を得て開業した後、改装して偽装ラブホにする抜け道が広がったのでは」と解説する。
 加えて、偽装ラブホには風営法に基づく立ち入り検査の権限が警察にはなく、18歳未満の入店も禁止できないため、児童買春など性犯罪の温床になるとの批判は少なくない。
 こうした問題を受け、各都道府県警は改正風営法の施行を機に、禁止区域で営業する既存の偽装ラブホにも既得権を与え、正規のラブホとして届け出をするよう促した。
 しかし改正法でもラブホの定義は限定的で、要件がひとつでも欠けているとラブホとはみなされない。例えば、室内にアダルトグッズ自販機を置いても休憩料金を表示しなければラブホにはならない。このため、少しの設備変更で法の網をくぐり抜け、偽装ラブホとして営業を続けることが可能になるのだ。実際、改正法施行を機に正規のラブホにくら替えしたケースは少ないとみられる。
 NPO法人「全国偽装ラブホテルをなくす会」(神戸市)の馬場敦子代表(34)は「改正法で新たにラブホの定義はできたが、結局はいたちごっこ。違反したとしても風営法では罰金を払えば営業することができてしまう。違反を繰り返すなど悪質なホテルには、行政は旅館業法に基づく営業停止措置をとるなど厳しく取り締まるべきだ」と話している。

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