Monday, July 25, 2011

25/07 天声人語

2011年7月25日(月)付

 どこで聞いたか、微笑を誘う話を思い出す。ある大人が小学生に「学校では授業の始まりと終わりにベルが鳴るねえ」。すると小学生、「違うよ。休み時間の始まりと終わりに鳴るんだよ」▼勝手な想像だが、子ども時代に遊びより勉強が好きだった人は少数派だろう。わが脳裏にも、休み時間に寸暇を惜しんで校庭へ飛び出した記憶が残る。それだけに、原発禍で屋外の活動もままならない福島の子らは、つらい1学期だったろうと思う▼外遊びに欠かせない「サンマ」というのがあるそうだ。時間、空間、仲間の三つの「間」を言う。しかし福島っ子は、遊びの空間ばかりか「日常の空間」さえ不安が消えない。夏休みを迎え、遠地への「疎開」が相次いでいるという▼福島市内のある小学校では、700人近い全校児童の3人に1人が県外などへ長期間出かけるそうだ。「夏休みだけでも思いっきり遊ばせてやりたい」「一回り大きくなって帰って来てくれたら」。長い不在は親御さんたちにも試練だろう▼夏のあいだ福島の子らを受け入れる各地のプログラムは、軒並み満員という。だが様々な事情で行けない子もいよう。五感全開の夏休みを窮屈に過ごす姿を思えば、この国の大人として申し訳がない▼〈人間だって/つらい事があっても/根をはり むねをはり/もっともっと強くなろう/麦のように〉。福島の児童詩誌「青い窓」の最新号に見つけた小4の一節に胸を突かれる。それぞれの子に、夏の実りの多かれと願う。

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