Wednesday, June 15, 2011

15/06 余録:一昨年、300人以上の死者を出し…

 一昨年、300人以上の死者を出し、6万人が被災したイタリア中部地震の時のことだ。被災地を視察したベルルスコーニ首相は独テレビのインタビューにこう言った。「テント生活を送る人は週末のキャンプをしていると思えばいい」▲その失言癖と裁判がらみの醜聞、そしてメディアを支配下に置く財力ではどの国の指導者にも負けぬベルルスコーニ首相だ。国民投票では原発再開の賛否と共に、首相の公判出廷義務を免除した法の是非も一緒に問われた▲その彼が有権者にボイコットを呼びかけた国民投票は久々に50%を超える投票率を示し成立した。イタリア国民は圧倒的な高率によって出廷引き延ばしで時効に逃げ込む首相の得意技を封じ、全世界注目の原発再開に対しては明快に「反対」の意思を示したのである▲ベルルスコーニ首相の影響下のメディアは事前に無視の姿勢を見せていた国民投票だ。だが約1カ月前のローマではネットを介した地震予言のデマで大規模な避難騒動もあったイタリアである。一昨年の記憶も生々しい国民には「フクシマの衝撃」は小さくなかった▲原発災害での「週末のキャンプ」はごめんだと突きつけられた首相に、さすがに放言の余裕はなく、あっさり原発断念を表明した。原油高や温暖化対策で原発計画再開へ進んでいた欧州の空気を一変させ、独、スイスに続く原発の放棄をもたらした「3・11」である▲これで脱原発と原発推進の真っ二つに分かれた欧州諸国だ。ただ忘れてはいけない。歴史的な岐路では、対立する原理のダイナミックな角逐を通して新たな時代の扉を開くのが欧州文明の生理である。
毎日新聞 2011年6月15日 東京朝刊

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