Wednesday, March 14, 2012

記者の目:震災1年 風化繰り返した過去の悲劇=熊谷豪(大阪社会部)


 ◇今回は教訓伝わる記録残そう

 三陸沿岸部は、明治維新以降に限っても、明治(1896年)、昭和(1933年)、チリ地震(1960年)と3度、大津波に襲われてきた。だが、「海辺に住むな」「高台に逃げろ」というそれぞれの津波が残した教訓は、早急に風化し、十分には生かされてこなかった。東日本大震災では約1万9000人が死亡したり行方不明になったりした。今度こそ、震災の悲劇と、その教訓を忘れまい。
 33年の昭和三陸津波の後、宮城県が今日でも通用するような、さまざまな復興政策を実施したことはあまり知られていない。

 ◇復興記念館も次々取り壊し

 震災を永久に記録しようと、全国から寄せられた義援金をもとに、県内32カ所に建てた復興記念館もその一つ。震災資料の展示や記念行事を行うほか、講演や教育の場としても地域住民が利用できた。
 だが老朽化による取り壊しで、昨年3月の震災前に残っていたのは5館のみ。震災記録に興味を持ち、記念館の現状を調査した気仙沼市の白幡勝美教育長(66)は「(教訓の)風化の早さを物語っている」と残念がる。記念館は震災で今は1館を残すだけだ。
 その最後の1館は、津波の常襲地帯、唐桑(からくわ)半島にある宿(しゅく)集会所だ。老朽化した集会所で私が驚いたのは、震災資料が一切残されていないことだ。戦後、家政学校や商工会事務所として利用され、いつまで展示されていたのかすら定かではない。取り壊されなかったのは、代わりの集会所がなかったからという。
 「40年前、私が子どものころは映画を見る娯楽の場だった」。数年前に取り壊された隣接する大沢地区の記念館について、ある住民が振り返った。だが、そこにもやはり「震災資料はなかった」という。当時、宮城県が三陸津波について記録などをまとめた「宮城県昭和震嘯(しんしょう)誌」に「災害を永久に追憶し」「天災に対する知識を獲得」させると記された記念館の目的はどうしたのか、と考えてしまった。
 宮城県は当時、浸水地での住宅建築を禁止する罰則つきの規則も定めた。工場を建てる場合でも「ココニスンデハ キケンデス」と掲示するよう求めた。現在の「高台移転・職住分離」の宮城県の方針と同じだ。だがこの規則は戦後、新憲法施行に伴う法令の整理で失効してしまった。今議論される「高台移転」も同じ運命をたどるのだろうか。
 さかのぼると、明治三陸津波の悲劇も早々に忘れ去られたようだ。各地に石碑が建立されたが、津波の25年後に三陸を歩いた民俗学者・柳田国男は旅行記「豆手帖から」で「恨み綿々などと書いた碑文も漢語で、もはやその前に立つ人もない」と記した。
 浜辺に再建した家は漁業や商売で稼ぎ、よそから移り住んだ人たちは海岸近くに所構わず住んだという。村落は震災前のように復興し、柳田は「一人一人の不幸を度外におけば、疵(きず)はすでにまったく癒えている」と書いた。だがそれはとりもなおさず、津波の教訓が25年で忘れ去られたことに他ならない。
 気仙沼市の「リアス・アーク美術館」の山内宏泰・学芸係長(40)も「なぜ(教訓が)伝わらないのか」と悩んできた。同館では06年、明治三陸津波の被災地の惨状を示す展覧会を開催した。当時の犠牲者2万人以上の人形模型を並べ、襲来が予想される「6メートルの津波」の模型も作製した。被害の大きさを体感してもらう狙いだったが、2カ月弱の期間中、来場者はわずか1200人。震災後、山内さんは、教訓の継承には、それをわかってもらうための「表現力」や「物語性」が重要だ、との思いを強くした。

 ◇被害の大きさ書き続ける

 被災地の何をどう記事にすれば、「次の震災」に役立つのか。私は震災後、約3カ月にわたる岩手・宮城での取材で常にそれを考えてきた。
 妻(39)と次女(1歳10カ月)を亡くした宮城県内の男性(41)の話が心に残る。男性は「死にたい」と、生き残った長女(11)に漏らした。「パパ、私は生きたい。私のために生きて」と長女は答えたという。私は、2人が支え合う姿を記事にしようと思ったが、男性は「美談として書かないでほしい」と語り、「前向きになれない遺族の存在を伝えてほしい」と続けた。
 私は、男性のことは、記事にしなかった。だが人々の被った計り知れない悲惨さを書き続けることは、被害の大きさと教訓を後世に伝える一助になるのかもしれない。被災地では報道だけでなく、官民を問わず、さまざまな人が震災の記録に取り組んでいる。今度こそ、教訓が永遠に語り継がれるような記録を残したい。
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毎日新聞 2012年3月14日 東京朝刊

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