Thursday, March 1, 2012

記者の目:続・ソーシャルメディアと新聞=小川一(コンテンツ事業本部)


 ◇新時代の協働へ徹底議論を

 ツイッターなどソーシャルメディアと、新聞などマスメディアは今後、どう協働していくべきか--。新時代での新聞改革やその情報発信のあり方を巡り、毎日新聞は2月以降、社内での研究会(記者、営業職など計約550人が参加)を続けてきた。私は2月2日付の本欄で、「今後、新聞記者はソーシャルメディアを活用し、読者との『双方向』対話を深めるべきだ」と訴え、記者ができる範囲で取材の過程を公開したり、ネット上に拡散する誤情報を記者が指摘することなどが、今後の新聞の課題だと訴えた。だがこれには反論も多い。新時代に向けた議論の中身と、試みの一部を報告したい。
 「記者ができる範囲で取材過程を公開する」。私のこの主張に関して、研究会では、30代の生きづらさを報告した毎日新聞くらしナビ面の連載「リアル30’s」(1月)の取材班が報告した。
 取材班は連載開始前からツイッターで取材の意図や記者の思いを発信。読者との対話を、取材や執筆に役立てた。読者同士の対話も始まり、それを参考に記事構成を変更することもあった。取材班は「未経験のライブ感だった」と振り返る。一方、運動部の記者はフェイスブックを使った実践例を語った。サイト上の「友達」をたどり取材相手と連絡をとり、取材の意図を伝え質問もする。その過程を多くの人が見られる。「フェイスブックで連絡先がわかり、取材できた人もいる」と彼は語った。

 ◇編集途中の発信、大混乱の懸念も

 だが、慎重論も多かった。
 新聞社では記者の原稿をデスクが修正する。私は2月2日付本欄の記事のうち、デスクが削除した部分をツイッターで公開。記事の狙いを説明したが、これにはデスクたちから反論があった。「全ての記者が、デスクが削った文章を公開したら大混乱になる」。デスクが記者の原稿を修正するのはさまざまな理由がある。編集途中での安易な情報発信で、読者や取材源の信頼を失う場合もある。徹底した議論が必要だと感じた。
 「ネット上の誤情報を記者が指摘する」という取り組みには山形弁研究家でタレントのダニエル・カールさん(51)の奮闘が参考になった。
 東日本大震災の直後、ダニエルさんは、海外からのデマ情報と闘った。デマの発信源の多くはなんと海外の有力メディア。「400万人が東京を脱出し、銀座の路上ではヨウ素剤が法外な値段で売られている」(伊レプブリカ紙)。「核汚染の煙が金曜日までに米国に到達する」(英デーリー・メール紙)……。
 日本在住の外国人の多くは日本語のニュースを十分に理解できない。ダニエルさんは扇情的なこれらの報道に怒り、在日外国人の間でパニックが起きることを懸念。ツイッターなどを使い、日本メディアの報道や自分の体験などを正確に英語で伝えた。これには大きな成果があった。多くの在日外国人が立ち上がり、海外メディアのデマ報道の数々を「恥の壁」と名付けたサイトに掲載した。
 私はここにマスとソーシャル、二つのメディアが協働できる新しい可能性をみる。ネット情報はデマが拡散しやすい一方、信頼される人物の発信は一人でも大きな力を持つ。この隊列に新聞記者が加われば強い布陣になる。記者個人が多くの人とつながり、リアルタイムに修正情報を出しながら、自社の紙や電波でより確実な情報を流す。そんな情報環境を思い描く。

 ◇新聞は信頼維持へ不断の努力を

 一連の議論の中で、絶対忘れるべきではないと思ったのは「新聞への信頼」を維持する、ということだ。福島第1原子力発電所の事故の際「新聞は政府や東電と結託し情報を隠蔽(いんぺい)している」という批判が出た。いわれなき批判だが、信頼性を得るためには新聞にも不断の努力が必要だ。
 評論家の武田徹さんは著書「原発報道とメディア」で「マスメディアはあまりにも編集工程をブラック・ボックス化しすぎた。その不透明性が不信感を醸成させた」と指摘する一方、今後、マスとソーシャル、二つのメディアが協働し、必要ならば情報を訂正しあうように求めた。同感だ。これが新聞改革の第一歩になるとも思う。
 今後も毎日新聞は研究会を開き議論を深めていく。その内容は私のツイッターアカウント(@pinpinkiri)や本紙、首都圏発行のタブロイド紙「MAINICHI RT」の紙面を通じて随時報告していく予定だ。
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 ■ことば

 ◇ソーシャルメディア

 新聞などマスメディアが読者への一方的発信なのに対し、フェイスブックやツイッターなどネットを使い、双方向で発信できる。フェイスブックの場合、参加者が紹介し合いながら「友達」を広げることができ、利用者は8億人。
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毎日新聞 2012年3月1日 東京朝刊

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