Thursday, September 22, 2011

22/09 余録:日本ではしばしば「繁文縟礼」という…

 日本ではしばしば「繁文縟礼(はんぶんじょくれい)」という難しい訳語があてられる英語の「レッドテープ」である。お役所の融通のきかない形式主義や、煩雑な書類手続きを指す言葉だ。その昔英国の役人が赤いひもで公文書を結んだのに由来するという▲この表現を初めて使ったのはディケンズの小説「デイヴィッド・コパフィールド」だといわれる。その主人公に言わせれば、哀れなブリタニア(大英帝国)は事務のペンで串刺しにされ、官僚的形式主義の赤いひもで手足をぐるぐる巻きに縛られているというのである▲「繁文縟礼」も規則や作法が細々と煩わしいことを指す熟語だ。役所に何かを申請して大量の書類の提出を求められ、煩雑な手続きに苦しんだという経験は珍しくない。しかし人々の暮らしをめちゃめちゃにした企業がその被害者に強いる繁文縟礼はいかがなものか▲東京電力の原発事故による損害賠償請求手続きの煩雑さに被害者が戸惑っている。東電から被害者に送られた補償金の請求書類は1人分で60ページ、説明書は156ページにのぼる。東電には「書き方が分からない」「専門用語が難しい」という苦情が殺到しているそうだ▲このため日本弁護士連合会は請求方式を被害者本位のものに見直すよう求める会長声明を出した。また「書類の分厚さに私もあぜんとした」という枝野幸男経済産業相は東電に改善を指導するという。生活に困っている住民をさらに困らせるようでは何の「賠償」か▲「レッドテープ・マインド」という言葉も英国にはある。想像力を働かせて物事を洞察できない心性で、被害者の困惑もまたまた「想定外」だったらしい。
毎日新聞 2011年9月22日 東京朝刊

No comments:

Post a Comment