Friday, September 9, 2011

09/09 余録:人づてに言葉が渡っていくうちに…



 人づてに言葉が渡っていくうちにどんどん変わっていくさまを楽しむ伝言ゲームである。同じような遊びは世界中にあって「電話ゲーム」という名がついているところが多い。「壊れた電話」や「コードのない電話」と呼ぶ国もある▲「チャイニーズ・ウイスパーズ」、つまり「中国人のささやき」というのは英国だ。「アラブ人の電話」はフランス。東洋人の言葉は訳が分からないというかつての偏見から生まれた名前であろう。英語の辞書には「ロシア人のスキャンダル」という言い方も見える▲人は伝言ゲームで、自分の関心を強く引きつけた言葉を軸にして伝言内容を無意識のうちに作り替えてしまうのだという。むろん子供の遊びならよいが、国家的危機への対処における情報伝達にはあってはならないことだ▲菅直人前首相が先ごろのインタビューで「伝言ゲーム」と評した福島第1原発事故初動での首相官邸と東京電力本店、現場との意思疎通だ。問題視された事故当初の現場視察や、東電本店に乗り込んでの指示をめぐる釈明でもあるが、感じたもどかしさは事実だろう▲とくに気になるのは東電から経済産業相経由で現場撤退の意向が伝えられ、前首相自ら東電本店で「放置すれば日本が成り立たなくなる」と説いたという局面だ。この時、現場は撤退不要と見ていた。東電は全面撤退要請を否定している。伝言ゲームの真相はどうか▲今後の調査では事故の前と後のあらゆる局面の伝言ゲームのもつれが解きほぐされることになろう。「ジャパニーズ・スキャンダル」のそしりを受けぬ原発災害の全容解明は世界に対する日本人の責務だ。
毎日新聞 2011年9月9日 東京朝刊

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