2011年7月27日(水)付
なでしこが銀で終わっていたらと、記憶を「残り3分」に巻き戻す。沢さんの一撃が、岩清水さんの捨て身の守備がなければ1点差に泣いたと思う。PK戦には、佐々木監督の笑顔や海堀さんの冷静さが必要だった。どれを欠いても、今とは違う日本があった▼世界一の余韻の中で、響きも懐かしい「なでしこフィーバー」が続いている。代表選手は飾らぬ笑顔をテレビにさらし、親類や恩師、行きつけの飲食店が「知られざる素顔」を明かす。時の人である▼勝者を戒める言葉は多いが、彼女たちは心配なかろう。女性がサッカーを仕事にできる世の中こそがゴールで、国際試合での活躍はその手段と、皆が考えているらしい。喜ぶのはまだ早い、と▼幸い、国内リーグは大入りで再開された。沢さんら7人を代表に送るINAC(アイナック)(神戸)のホームは、空前の1万8千人で埋まった。ピッチ上のやりとりが声援にかき消される夢体験も、金(きん)ゆえだ▼今度は団体初の国民栄誉賞だという。「社会に明るい希望を与えていただいた」と官房長官。本来政府がすべきことをしてもらった、と聞こえる。政治利用の批判もあろうが、幸か不幸か、首相の不人気は賞でどうにかなる水準ではない▼社会が沸き、政治が追い、経済が動く。朝から元気をもらったお返しに、女子サッカーに幸あれと願う向きは多いだろう。その中から、試合に足を運び、娘にボールを蹴らせる人がどれほど出るか。「フランクフルトの奇跡」は、そこで評価が定まる。
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