Saturday, April 23, 2011

23/04 編集手帳

4月23日付 

 作家の山口瞳さんは語ったという。「私はスーちゃんを妻にし、ランちゃんを恋人にし、ミキちゃんを秘書にしたい…」。コラムニストの青木雨彦さんが自著『にんげん百一科事典』(講談社)に書き留めている◆「キャンディーズ」を知る世代には、このいささか欲張りな望みにうなずく人もいるだろう。田中好子さん(スー)、伊藤蘭さん(ラン)、藤村美樹さん(ミキ)それぞれの個性を、一筆書きの素描に写し取っている◆元気に歌って踊る「日本のお嬢さん」から演技派の女優となって「日本の母」へ、「日本の…」という枕詞(まくらことば)がいつも似合った女性である。田中さんが乳がんで亡くなった◆グループで活動した1970年代は高度成長が一つの峠に立った時期である。戦後復興という“祭り”の輪でスーちゃんはひときわ輝いていた。青春を共にしたファンは今、頭に白いものが交じる年齢である。古いレコードを手に取った人もあろう。それにしても55歳は早過ぎる◆この震災で何かが終わったと、日本人の多くが感じている。何だろう。あの遠い祭り囃子(ばやし)ですか――と、その人の後ろ姿に聞いてみる。

(2011年4月23日01時26分 読売新聞)

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