Saturday, April 23, 2011

12/04 編集手帳 - 「ままへ。いきてるといいね おげんきですか」- 「愛する」が日本語になるには

4月12日付 

 日本の風土から生まれたというよりは、西欧産の輸入語めいた香りの漂う「愛する」という言葉を嫌ったのはコラムニストの故・山本夏彦さんである。「愛する」が日本語になるには、百年や二百年はかかるだろう――と◆「百年や二百年」の時間を、この大震災が縮めたのかも知れない。愛する家族、故郷…山本さんが存命でも、おそらくはもう抵抗を感じない日本語だろう◆このひと月、胸を突かれた記事を切り抜く暇のないまま、破ったなりに机へ積み上げてある。岩手県宮古市、こん愛海まなみちゃん(4)の記事(本紙3月31日付)は何度、手に取ったか分からない◆両親と妹が津波にさらわれた。親戚の家に身を寄せた愛海ちゃんは、こたつの上にノートをひろげ、母親に手紙を書きはじめたという。「ままへ。いきてるといいね おげんきですか」。1文字ずつ、色鉛筆で1時間ほどかけて書いたといい、そこまで書いて疲れたのだろう。ノートを枕にすやすや眠る、あどけない寝顔の写真が載っている◆きのうも強い揺れが東日本を襲った。愛する人を奪い、奪われた人をおびやかす。いいかげんに、もうよせ。

(2011年4月12日01時13分 読売新聞)

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