Sunday, July 24, 2011

24/07 天声人語

2011年7月24日(日)付

 旧知のご高齢からの暑中見舞いに「再び、困った時のツル頼みです」とあった。ツルとは蔓(つる)のこと。戦時の食糧難の際、空き地を耕してサツマイモやカボチャが作られた。少年だったご高齢も校庭の隅で慣れぬ鍬(くわ)を振るったそうだ▼言われてみれば、イモもカボチャも蔓を伸ばす。時は流れて節電の夏、猛暑を少しでも和らげようと蔓性植物が窓や壁を這(は)う。「緑のカーテン」の一語はすっかり市民権を得た。私事ながら拙宅でも、自治体の抽選で当たったゴーヤが窓を覆って伸びている▼去年はヒョウタンを植えた。アサガオやヘチマも人気だが、今年はゴーヤが大ブレークした。まず育てやすい。畑作の経験だと、キュウリが病気でへたってもゴーヤはどこ吹く風だ。葉の茂りも濃く遮光効果は大きい▼〈なおこやらりこちゃんというゴーヤあり吾子(あこ)は名札を作るのが好き〉。ほほえましい一首が去年の小紙歌壇に載っていた。名前をもらってすくすく育つ緑を想像すれば心の中を涼風が吹く▼むろん実際の効果もある。葉っぱから水分を蒸散させて周りの熱を奪ってくれる。横浜市の調査では、緑のカーテンで日なたの壁の温度が約10度下がるそうだ。植物の力はあなどれない▼〈やっぱりか あっちこちからゴーヤ来る〉はこのあいだの川柳欄。おすそ分けが隣近所を行き交う図も楽しい。ビタミンCが豊富で夏バテ予防に良いというから一石二鳥だ。チャンプル料理に冷えたビールを泡立てる。暑さもまた良し、の舌鼓となる。