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Tuesday, July 12, 2011

16/06 憂楽帳:日本酒学講師


 「本格的な造りの甘酒を飲んでみませんか」。マスターが杯を出した。飲んべえの私だが、砂糖の甘みが強い甘酒はどうも苦手。マスターはなおも勧める。「甘酒には2種類あるんです。酒かすを溶いて砂糖を加えるのと、米と米こうじで造るのと。これは長野県の酒蔵が、米と米こうじでしっかり造った自信作です」
 京都市左京区、鴨川のそばで居酒屋を営む伊東昭黄士( しょうじ )さん(59)は「日本酒学講師」(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会認定)の肩書を持つ。伊東さんいわく「日本酒の案内人」。試験では酒の知識だけでなく、話術やプレゼン能力も問われ、全国でも143人(15日現在)しかいない。
 「日本酒は本来のおいしさを知ってもらえないまま、誤解されている」。そんな不満を持つ伊東さんは、日本酒が苦手な人には、あえて勧めたくなるという。店で日本酒に開眼したお客さんも多い。
 勧められた甘酒は、ふくよかでしっかりと米の味がした。「どうです。全然違うでしょう」。思わずお代わりをお願いした私に、日本酒学講師は「してやったり」の笑顔を見せた。【駒崎秀樹】
毎日新聞 2011年6月16日 大阪夕刊

12/07 憂楽帳:司法と福祉

 「正月に遊びに行っていい?」。年の瀬、離れて住む父に電話すると「来なくていい」と怒鳴られた。元日の夜。男(38)はやり場のない感情を抱えて河川敷をさまよい、高架下に標的を見つけた。以前と同じように。

 路上生活者を鉄パイプで殴り3人を殺傷した罪で起訴された男は、法廷で動機を聞かれ「八つ当たっちゃったんです」と言った。医師の鑑定結果は自閉症で、専門的なケアを受ける機会を逸していた。自分の言動が理解されずストレスをためこんだ時、解消するすべを知らず、より立場の弱い者にはけ口を求めるようになっていた。

 無期懲役の求刑に対し、東京地裁立川支部は5月末、男に殺意はみられず責任能力も不十分だったとして、懲役12年の判決を言い渡した。そして最後に「可能な限り障害に留意した処遇を」と付け加えた。

 司法と福祉の連携不足が多くの被害者と加害者を生んできた。再犯防止には福祉の力が必要だという認識を示した判決が、互いの距離を縮めるきっかけになってほしい。【磯崎由美】

毎日新聞 2011年7月12日 東京夕刊

12/07 憂楽帳:季節感

 日曜の午前6時、寺の雨戸と木戸を一斉に開けた。福岡市の禅寺・聖福寺で月2回開かれる座禅の日だ。夏も冬もなく、開け放たれた方丈(本堂)で、そろって禅を組む。寒さで鼻水が垂れても、暑さで汗が目に入っても、動いてはいけない。「セミの声だけを気にとめて」と老師。しかし何年過ぎても、考え事や足の痛さが気になる。

 「コーン」という木を打ち鳴らす音が響くと、座禅は終わる。すると休む間もなく、そうじが待っている。古雑巾をバケツで絞り、板の間や欄干をふく。終わったころ、座敷には冷茶と楊枝(ようじ)のついたようかんが待っていた。一息ついた時、のどを通る茶の涼が身と心に染みた。
 「節電の夏」が本格的に始まった。定時退庁を推進する市役所や照明を半減する企業。原発事故は今後、生活の全てを変えていくだろう。
 エアコンやテレビのある暮らしは、快適だ。でも、私たちは代わりに「季節感」をだんだん失ってきつつあるのではないか。禅寺で「さとり」を開こうなどとは言わないが、節電を機にこれまで遠ざかる一方だった自然を感じる術を取り戻したい。【反田昌平】
毎日新聞 2011年7月12日 西部夕刊

12/07 憂楽帳:司法と福祉

 「正月に遊びに行っていい?」。年の瀬、離れて住む父に電話すると「来なくていい」と怒鳴られた。元日の夜。男(38)はやり場のない感情を抱えて河川敷をさまよい、高架下に標的を見つけた。以前と同じように。

 路上生活者を鉄パイプで殴り3人を殺傷した罪で起訴された男は、法廷で動機を聞かれ「八つ当たっちゃったんです」と言った。医師の鑑定結果は自閉症で、専門的なケアを受ける機会を逸していた。自分の言動が理解されずストレスをためこんだ時、解消するすべを知らず、より立場の弱い者にはけ口を求めるようになっていた。

 無期懲役の求刑に対し、東京地裁立川支部は5月末、男に殺意はみられず責任能力も不十分だったとして、懲役12年の判決を言い渡した。そして最後に「可能な限り障害に留意した処遇を」と付け加えた。

 司法と福祉の連携不足が多くの被害者と加害者を生んできた。再犯防止には福祉の力が必要だという認識を示した判決が、互いの距離を縮めるきっかけになってほしい。【磯崎由美】

毎日新聞 2011年7月12日 12時50分

Monday, July 11, 2011

11/07 憂楽帳:節電の効果

 昨年173キロワット時、今年112キロワット時。いずれも東京電力から通知された我が家の最近1カ月間の電気使用量だ。検針期間が若干、異なるが、今年の使用量は約30%も減っていた。

 企業も家庭も「節電を」と要請される中、自宅でどれだけ減らせるか試してみた。心がけたのは、朝の出勤前などの在宅時になるべく部屋に日光を取り入れ、消灯する単純な行為だった。
 環境省によると、電気使用量で照明の占める割合は、一般的な家庭で約16%、オフィスの専有部分では4割にもなる。「照明を消すことは、費用ゼロで高い節電効果を示す優れた手法です」と同省の担当者は話す。
 日本中で電灯が外され、ビルの廊下が暗いのもうなずける。同省は28%の節電目標のうち、照明の使用量を6割減らすことで6%分を見込んでいる。
 だが暗い話ばかりではない。我が家は節電効果で電気料金が約2割減った。昨今、何かとその行為に怒りを覚える電力会社への支払いが減り、ほんの少し温かくなった懐で、1日だけ豪華なランチを楽しんだ。【江口一】
毎日新聞 2011年7月11日 東京夕刊

11/07 憂楽帳:失言の余波

 宮城県の仮設住宅で4日、被災者の人たちを取材していた時のことだ。ある女性が渡したばかりの名刺を見て、こう言った。「福岡からけぇ? あの人のこと、よく選んだなっす」

 あの人とは、「助けない」発言で復興担当相を辞めた松本龍衆院議員(福岡1区)のことである。怒りは燃え広がり、おさまる気配がない。
 別の被災者が地団駄を踏む。「知事は汗水垂らして宮城のために頑張ってるよ。それを『しっかりやれ』って上から目線。国ってそんなに偉いんですか?」。「知事に向けた発言」は、復興へと歩み始めた「被災者への侮辱」と受け止められた。
 「九州の人間」が、失言で大臣ポストを追われたケースは過去にもある。事故米問題で「消費者がやかましい」と発言した太田誠一元農相(福岡)、原爆投下をめぐる「しょうがない」発言で批判を受けた久間章生元防衛相(長崎)らだが、失言の代償はいつも、本人が思う以上に大きい。
 震災発生から4カ月。被災地にはさまざまな格差が広がっている。今こそ未来へのメッセージが必要だ。政治の力の見せどころである。【鈴木美穂】
毎日新聞 2011年7月11日 西部夕刊

Friday, July 8, 2011

08/07 憂楽帳:世界遺産・西湖


 小笠原の世界遺産決定に沸いた日、中国浙江省杭州市の西湖も世界文化遺産に選ばれた。満潮時に川の水が逆流することで有名な銭塘江の堆積(たいせき)物でせきとめられた自然の湖で、蘇東坡や白居易らが詩に詠んだ中国を代表する景勝地だ。「○○西湖」と名のつく湖は中国各地にあるが、本家はここ。中国の世界遺産としては41番目になる。
 清朝の乾隆帝が、江南視察で訪れた西湖を忘れられず、北京郊外に模して造らせたのが頤和園(いわえん)の昆明湖。西太后が軍事費を流用して改修、北洋艦隊の装備が更新できず日清戦争の敗因になったともいわれる。本家より先に98年に世界遺産となった。
 福岡市の大濠公園も大正末、東京帝大の本多静六教授と弟子の永見健一講師が西湖をモデルに設計したという。
 西湖3323ヘクタール、昆明湖220ヘクタール。皇帝なら輿(こし)に乗ればいいが、旅行者が回るとなると足が棒になった。馬英九台湾総統も10年前、台北市長時代に来福、大濠公園でジョギングを楽しんだ。運動不足のわが身も、池面積22ヘクタール、1周2キロの大濠公園あたりがちょうどいいか。中国世界遺産全制覇まであと13カ所。足腰を鍛えねば。【小林猛夫】
毎日新聞 2011年7月8日 西部夕刊

Thursday, July 7, 2011

07/07 憂楽帳:福島の子供対策


 「福島県の子供が原発事故による放射能汚染の不安におびえる様子を見てられない。カネ(予算)は幾らでも付けるから、学校や通学路の放射線量低減策を一日でも早く打ち出してほしいと、文部科学省の担当者にお願いしている。新聞も『菅(直人)政権は子供対策を急げ』と書いてください」
 5月中旬、夕食をともにした財務省の中堅幹部は熱っぽく訴えた。「同じ子供を持つ親として、対策の遅れは許し難い」とも。
 それから約1カ月半。菅政権はようやく福島県の学校や妊婦の放射能汚染対策を盛り込んだ11年度第2次補正予算案を閣議決定、国会に提出した。
 先の財務省幹部は、学校で削り取られた放射性物質を含んだ土が校庭に置かれたままな点も心配し、「福島第1原発敷地内に密閉施設を造って、削った土を集約すべきだ」とも指摘したが、菅政権はそこまで対策を徹底する方針は示していない。天下り問題など何かと批判される霞が関だが、政治混迷で遅れる東日本大震災対応に心を痛める官僚も少なくない。【竹川正記】
毎日新聞 2011年7月7日 東京夕刊

Wednesday, July 6, 2011

06/07 憂楽帳:大女優

 インタビューで引き出された自然な表情は魅力的だ。有名人の取材では、カメラマンは既成のイメージと異なる表情を狙う。写真部駆け出し1年目に「大女優」を取材したときのことだ。インタビュー中の撮影が禁止され、終了後に時間がとられた。お付きの人が「顔の右側からだけ撮影してください」といった。

 カメラを構えると、大女優は左斜め上を見つめ、その瞬間が自然の流れで訪れたようなポーズを決めた。シャッター音が響くと、次々とポーズを変えて二十数カット。「終わりです」といわれるまで、30秒とかからなかった。会話はなかった。すべてのカットが美しくはあるが、人形のようで人間味は感じられない。
 私は大女優のイメージ通りにセルフポートレートを撮らされていたのだ。私はカメラマンではなく、カメラそのものだった。敗北感でいっぱいになった。
 よい表情を撮影するには、透明人間か映画監督になることだ。存在を消し自然な表情を待つか、イメージを伝え、表情を引き出していく。あれから16年。今なら正面きってレンズと向き合ってもらうか、冗談で笑わせるだろう。【北村隆夫】
毎日新聞 2011年7月6日 大阪夕刊

Monday, July 4, 2011

04/07 憂楽帳:やっぱり大阪


 大阪への異動が決まった後の今年4月、単身赴任用のマンションを探すため難波の不動産業者を訪ねた。「家賃は3万円以下。新世界かあいりん地区周辺で」。30歳前後の店長は「希望が多くない地域なので……」とやや戸惑いを見せた。
 新世界(大阪市浪速区)には通天閣がそびえ、あいりん地区(西成区)には仕事を求めて労働者が集う。以前担当した地域で人一倍の思い入れがある。こんな説明をすると、あちこちから物件の資料を取り寄せ、2件の候補を挙げてくれた。どちらも共益費込みで月3万円だ。
 店長は盛んに「同じ家賃ならこっち」とあいりんの物件を推すが、割れたバスタブに補修の粘着テープが。結局、狭さを我慢して新世界の物件を選ぶと、初期費用が少し安く済んだ。仲介料(共益費抜き家賃1カ月分)が安いためで、あいりんを勧めた理由が何となく分かった。
 異動の度、不動産業者の流儀にも土地柄を感じる。日祝日休みの金沢では「殿様商売か」と怒り、前任地の京都では細か過ぎる注意事項にあきれた。そして、大阪。たくましい商魂を垣間見て「帰ってきた」と実感した。【山本直】
毎日新聞 2011年7月4日 大阪夕刊

04/07 憂楽帳:写真に映る希望


 「福島の人々に希望と勇気を与える写真ですね」。水俣の海を撮り続けて16年になる写真家、尾崎たまきさん(40)が東京都内で開催している写真展「いまも水俣に生きる」では、来場者から少し予想外の感想が寄せられた。
 海藻の森を柔らかな太陽の光を浴びて回遊する魚の群れ、漁師の日常、水俣病の語り部だった故杉本栄子さんの笑顔--。尾崎さんのレンズは、水俣病で苦しんだ地域が回復した豊かな自然と、その恵みで生きる穏やかな日々を鮮やかに切り取った。昨秋に企画した写真展だが、「大震災の後に決めたのですか」「原発の問題が重なって見えます」と話す人もいたという。
 水俣病の公式確認は1956年。「魚(いお)わく海」といわれた水俣湾に、安全宣言が出たのは97年だった。原発事故と「重なって見える」のは、再び繰り返された重大な環境汚染への痛恨や、失った日常を取り戻す苦難と希望、なのかもしれない。
 写真展の情報は、ホームページ(http://www.ozakitamaki.com/)に掲載されている。【江口一】
毎日新聞 2011年7月4日 東京夕刊

04/07 憂楽帳:振り子の国

 今春、米国務省の招聘(しょうへい)プログラムに参加した際、ワシントンDCで中国の一行と一緒に講義を受ける機会があった。講師はジョージタウン大のムハレル・レオン博士。「米国の政治システム」のテーマで随所にQ&Aを交え、自由闊達(かったつ)な雰囲気の中で進んだ。

 民主主義の基本といった内容だが、軽快な語り口で飽きさせない。米国旗を燃やした男が無罪となった判例を基に「個人主義」や「表現の自由」を考えさせたかと思えば、メディアの重要性を論じたり。だが、中国の言論弾圧に及んだ途端、雰囲気は一変した。中国の通訳者が以降、一切の同時通訳を放棄したからだ。
 不穏な空気の中、博士は語り続けた。「寛容性が国を強くする。それは異なる意見にも耳を傾けるということだ」。通訳は訳すのを拒み続けた末、事態がのみ込めない自国の3人を引き連れて、時間きっかりに教室を後にした。
 滞在中、アジア情勢の専門家から聞いた「二つの中国」という言葉を思い出した。地域のリーダーとしてプラスの役割を担うのか、不安定要素となるのか。振り子のように揺れていて、まだ先行きは読めない。【鈴木美穂】
毎日新聞 2011年7月4日 西部夕刊

Saturday, July 2, 2011

02/07 憂楽帳:新旧の迫力

 「その瞬間、あなたは映画の中にいる」。こんなキャッチフレーズの新感覚の映画館「IMAX(アイマックス)デジタルシアター」が1日、奈良県大和郡山市にオープンした。「革新的なテクノロジーによって実現したデジタル映写システム」だそうで、臨場感が最大の売り。開館直前に体験試写に参加した。

 宇宙から深海までの映像が3D方式で大画面に映し出され、大音響のサウンドも加わり、一瞬にして非日常の世界に導かれた。ただ、強烈すぎて終わると、落差からたちまち現実に引き戻された。
 これとは逆の経験を、奈良市の薬師寺の東塔で味わった。7月から約110年ぶりに解体修理されると聞き、その前に初めて見に行った。高さ約34メートルで、六重にみえるが三重塔。この地に730年に建てられた。大きいし、きれいな形をしているが、息をのむほどではない。
 「ふ~ん」と思いながら眺めていたら気がつくと10分以上も凝視していた。なぜか去りがたい思いを抱かせる東塔。「凍れる音楽」と評される一端を感じた。
 最新技術と伝統建築。新旧の迫力は、後味が大きく違った。【玉木達也】
毎日新聞 2011年7月2日 大阪夕刊

Monday, June 20, 2011

20/06 憂楽帳:パレスチナに吹く風


 「8キロやせ、10キロ太りました」。3カ月ぶりに会うパレスチナ人大学院生、ファディ・クランさん(23)は血色も良くなっている。ヨルダン川西岸の同じ喫茶店で会った前回3月15日は、仲間とハンスト3日目。分裂していたパレスチナ指導部内の和解と民主化、イスラエルの占領終結を訴えるデモが、彼らの呼びかけで行われていた。和解は5月に実現し、世界が驚いた。
 ファディさんは、留学した米スタンフォード大で物理学を専攻。在学中に発明した小型の風力発電装置で起業しようと昨年、帰郷した。研究者の招請や機械の輸入などが占領下で厳しく制限される壁にぶつかった。「変革する民主的な手続きや機関もない」
 行動を始めた。西岸約80カ所での対話集会やウェブの交流サイトで、同胞の声を拾い、人をつなぐ。声は自治政府へ届けた。変化を感じるという。
 風力で起業する努力も続く。実現すれば工場で生産や雇用が生まれ、起業の成功体験も、政治運動の先に見える「若者の夢になるはず」との信念だ。大きな力を生む風だ。【花岡洋二】
毎日新聞 2011年6月20日 東京夕刊