Saturday, April 23, 2011

13/04 編集手帳 - 「月は泣いたかロンドンの、花ふりかかるパリの雪…」 - Fukushima = level 7

4月13日付 

 「月は泣いたかロンドンの、花ふりかかるパリの雪…」。無声映画の活動弁士は昔、この種の言い回しを多用したらしい。語調がよくて聞き流してしまうのだが、意味のよく分からない文句である◆似た例は、いまの世にもある。「想定外を想定せよ」。大震災が起きて以降、新聞の言説で、テレビに登場した識者の論評で、あるいは統一地方選の街頭演説で幾度か目にし、耳にした◆「想定外」は想定した時点で「想定内」であり、どこまでいっても想定外は想定できない。内容の空疎な名調子にすがらねばならないほどに防災の備えはむずかしい、ということだろう◆想定外の大津波で電気系統に想定外の破損が生じた福島第一原子力発電所は最悪の「レベル7」、チェルノブイリ級の深刻な事故だという。その数字にうろたえても仕方がない。全力で放射能を封じ込めるのみだろう◆意味のおかしな名調子は浪花節にもある。「利根の川風、たもとに入れて、ブラリ、ブラリと急ぎ足…」(天保六花撰)。心に“ブラリ”の落ち着きを忘れず、足は危機脱出へ急ぐ――いまをどう生きるかの教えに聞こえなくもない。

(2011年4月13日01時14分 読売新聞)

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