Sunday, April 10, 2011

28/03 危機管理、教訓が生かされない民主党

政治部 村尾新一

 東日本巨大地震と東京電力福島第一原子力発電所の事故でも、民主党政権の危機対応が心もとないと感じる方は多いと聞く。私はちょうど5年前の今ごろ、顛末を追いかけた「偽メール問題」を思い浮かべた。

 当時、党の検証チームがまとめた「報告書」を引っ張り出し、読み返してみたら、今に通じる論点がちりばめられていた。

 「偽メール問題」は、民主党の永田寿康衆院議員(当時)が2006年2月の国会質問で、「堀江貴文・ライブドア元社長が自民党の武部勤幹事長(同)の次男に3000万円振り込むよう指示した」とする電子メールを入手した、と断定的に取り上げたのが発端だ。このメールは当初から信ぴょう性が疑われたにもかかわらず、前原誠司代表(同)は党首討論で「確証を得ている」と強弁するなど、「メールは本物」との見方に固執した。

 結局は党もメールを「偽物」と認め、「ウソつき」「稚拙」などと厳しい批判にさらされ、前原氏は3月31日、代表辞任に追い込まれた。

 同じ日に公表された検証チームの報告書は、玄葉光一郎幹事長代理(現・政調会長兼国家戦略相)を座長に13人のメンバーが1か月かけてまとめあげたものだ。

 A4版で39ページ。経緯を細かく検証し、「問題点」として「思いこみに端を発した、確認されていない情報が、あたかも真実性があるかのごとく野田佳彦国会対策委員長に伝えられ、是正されないまま前原代表にも引き継がれた」などと断定。

 (1)リスク認識の不足によって、重大な事態が想定されていない (2)危機管理上の対応原則・方針が整備されておらず、マネジメント機能が働いていなかった (3)党幹部の間で正確な情報が共有されず、方針転換が遅れる結果となった――ことなども指摘した。その上で、「反省と教訓」として、以下のような点を挙げた。

▽いつも自らを客観化し、謙虚に力量を自覚する
▽自己教育に努める
▽情報そのものの合理性について、周辺事情を含めて調査する
▽間接情報は自らの目と耳と体で確認する
▽慎重の上にも慎重を期し、「功名心高揚」に陥らない
▽誤りが判明した時には、できる限り速やかに誤りを認め、責任を明らかにする

 踏み込んだ内容だったが、党内に十分浸透することはなかったようだ。

 というのも、民主党はこの直後の06年4月、松下政経塾出身者が中心だった前原体制とは全く体質が異なる小沢一郎氏が代表に就任し、党勢が「V字回復」したからだ。07年の参院選で大勝し、さらには09年の衆院選勝利で、悲願の政権交代を勝ち取った。そうした中で、「偽メール問題」は忘れ去られた。

 しかし、政権交代後、政権与党としての経験不足なども重なり、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件などで危機対応の迷走が続いている。

 まさにリスク認識、マネジメントが厳しく問われている今回の原発事故対応に対しても、「偽メール問題」処理にかかわったある同党議員は「東電の情報を過小評価し、対応が後手に回っているのではないか。あの時の教訓が全く生かされていない」と手厳しい。

 09年の衆院選政権公約で財源の裏付けがないまま、子ども手当、高速道路無料化などの実現を「断定調」で約束してしまったツケも回ってきている。

 「偽メール問題」の検証チームには、玄葉氏以外にも、仙谷由人官房副長官、蓮舫行政刷新相、細野豪志首相補佐官ら今の菅政権中枢が多く名を連ねていた。今からでも、あの報告書をもう一度、噛みしめてみてはどうだろうか。

(2011年3月28日 読売新聞)

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